ニセ八ツと言われる茅ヶ岳・金ヶ岳は、富士山、八ヶ岳、南アルプス、奥秩父の峰々を一望する第一級の展望の山として有名な山です。中央本線の車窓から眺めると八ヶ岳と間違いそうな岩峰がそびえています。ニセ八ツと言う何も頷けるものです。また、日本百名山の著者である深田久弥氏が急逝した山としても有名な山です。茅ヶ岳の山麓には、「百の頂に百の喜びあり」と刻まれた記念碑が建つ深田公園もあります。
中央線の特急あずさ3号は、我々と同じようなリュックザックを背負ったハイカーを詰め込み、まるで朝の通勤列車を思わせる混雑を乗せ、一路甲斐路へと向かって行きます。たどり着いた韮崎の駅前からは、東大宇宙線観測所のある明野村へとタクシーを飛ばします。高原の雰囲気の漂う明野村は、木の葉も赤や黄色に色づき今が秋の真っ最中です。
東大宇宙線観測所からしばらく登ったところにある登山口でタクシーを降ります。ここからは明るい赤松の林の中をたどる緩やかな登りが始まります。標高はすでに1,000mを越えています。カエデの赤やブナの黄色など、紅葉はすでに山麓を秋色に染めています。
しばらく登ると登山道は黄色く色づいたブナの雑木林の中をたどる急な登りに変わってきます。やがて露岩の多い痩せた尾根道にひと登りすると小さなピークにたどり着きました。晴れた日には西南に富士山、南アルプスの展望が開ける展望台になるというところです。しかし今日はあいにく曇っていて何も見えません。
ここから道は痩せた尾根の上をたどる露岩というよりはむしろ岩場をたどる尾根道になります。道の両側はミズナラやドウダンツツジの潅木が生えているため、それほど高度感はないものの、谷に向かいかなり切れ込んでいる尾根です。展望も開け正面にはこれから登る金ヶ岳、右手には茅ヶ岳の山頂を手に取るように眺めることができます。しばらく急な登りに汗を流すとやがて金ヶ岳の山頂にです。小広い山頂ではすでに3組みのパーティが昼食の最中。我々もコッヘルを出し昼食としました。
食事の最中、曇っていた空が晴れはじめ、正面に南アルプスの甲斐駒ヶ岳、今年の夏に登った地蔵岳のオベリスクから観音岳、薬師岳へと続く鳳凰三山の峰々が雲の上にその姿を見せてくれました。左手、茅ヶ岳の上には雲に浮かんで雪化粧をした富士山。振り返ると白い岩肌をのぞかせた奥秩父の金峰山と瑞牆山。右手には赤岳を盟主とする八ヶ岳連峰の峰々・・・。雲に霞んでいるものの360度の大展望が目を楽しませてくれます。
山頂での展望を楽しんだ後、茅ヶ岳へと向かうことにします。一度鞍部に下りり登り返した頂が南峰。ここから雑木林の中の尾根道を茅ヶ岳へと向かいます。途中小さな石門をくぐり、降り立った鞍部から再び急な坂道を登り返した頂が茅ヶ岳の山頂です。
広い茅ヶ岳の山頂からは、金ヶ岳にも負けず劣らずの素晴らしい展望を楽しむことができます。すっかり晴れ上がった青空の下に広がる南アルプスの山並みは、これだけでも一見の値があると言うものです。
山頂での展望を楽しんだ後、大明神の集落へと下ることにします。山頂から急な下り坂をしばらく下ると、小さな木標の建つ深田久弥氏の急逝の地です。日本百名山の著者であり、山をこよなく愛した山岳文学者、深田久弥氏の急逝したのはまさにこの稜線です。ここからさらにしばらく下ると昇仙峡に至る清川方面への分岐点。道は右手の急な沢へと下って行きます。急な登山道には赤や黄色の落ち葉が厚く積もり、ややもすると道を踏み外しそうになります。
下りきった沢には女岩の水場からは沢筋をたどる緩やかな登山道を下って行きます。唐松林の中をしばらくたどるとやがて道は雑木林の中を緩く下る林道に変わってきます。山肌を彩る紅葉に目を奪われながら林道を下って行くと深田公園にたどり着きました。公園には「百の頂きに百の喜びあり・・・」と書かれた石碑が建っていました。