日原川の奥にひっそりとそびえる天祖山は、古くからの信仰の山として親しまれてきた山です。また鷹ノ巣山と日原川を挟んで、その大きな山肌を見せている山です。これにもかかわらずこの山を訪れる人の少なさは、日原川の上流という地理的な悪さがその大きな要因でしょうか。
JRのホリディ快速奥多摩1号で、早朝の奥多摩の駅に降りました。駅前の広場はすでに色とりどりのリュックサックを背負ったパーティで混雑しています。駅前からは5分ほどの待ち合わせで東日原行きのバスが出るようです。
東日原のバス停から登山口のある八丁橋まではおよそ1時間の林道歩きです。奥多摩から東日原の集落にかけては、まだ紅葉の盛りのようですが、日原鍾乳洞のある小川谷橋を渡る頃からは、両岸の山肌の木々もすっかり葉を落とし、すでに晩秋のたたずまいが辺りを包んでいました。
たどり着いた八丁橋の登山口からはいきなり急な登りが始まります。息を切らせながら登りつめた尾根がハタゴヤ。木々の間よりタワ尾根ノ頭から続くタワ尾根が秋の青空をバックに聳えています。
晩秋の登山道は厚く降り積もった枯れ葉に包まれ、カサカサと心地よい音を聞かせてくれますが、ややもすると道を踏み外しそうになります。慎重に一歩一歩、道を確かめながら大日天神へと登って行きます。急な登りにしばらく汗を流すと、やがて薄暗いスギの木立の中にひっそりと建つ、大日天神の前にたどり着きました。かなり立派な社殿が建っています。
大日天神からは展望のきかない雑木林の中の急な登りに汗を流します。正面にそびえる小高い頂の奥に、天祖山の山頂があるようであるようですが、なかなかその姿を見せてくれません。やがて登りもやや緩やかになり、右手より廃道となったという新裏参道を合わせると、深い針葉樹の林の中に建つ天祖神社の会所前に出ました。建物はなかなか立派な建物で宿泊もできるようです。ここから山頂までは暗い林の中をひと登りです。
たどり着いた天祖山の山頂は、樹林に囲まれた静寂な雰囲気に包まれた頂で、天祖神社の大きな神殿があたりを圧倒しています。山頂からの展望はあまりありません。それでも葉を落とした梢の先からは、長沢背稜の稜線と手に取るように近い雲取山、南側には七ツ石山から鷹ノ巣山への尾根が眺められます。さすがに奥多摩も最深部に踏み込んだような気がする頂です。
天祖山からは、広い急な坂道を梯子坂のクビレに向かい下って行きます。正面には曇り始めた午後の空の下、長沢背稜の稜線とこれから続く雲取山への尾根が手に取るように眺められます。急な下り坂に足を取られながら下り切った鞍部から、小さなコブを2つほど越えたところが梯子坂のクビレ。ここからは道を右手にとり、雑木林の中の下り坂を孫惣谷の源流へと下って行きます。あまり人が入らない急な下り坂は落ち葉が厚く降り積もり、登山靴も埋まってしまいそうです。
下りついた梯子坂窪から沢沿いの道を下っていきます。やがて木の間隠れに、右手の山肌を荒々しく削る石灰岩の採石場が現れてきます。登山道は、なおも山肌を巻くように水松谷(あららぎたに)へと下って行きます。さらに沢筋をしばらく下ると孫惣林道との出会い。ここからは単調な林道を今朝、登り始めた八丁橋へ約1時間。ここからさらに暗くなりかけた日原川沿いの林道を、東日原のバス停までおよそ50分の道程です。バス停にたどり着く頃には早い秋の陽はとっぷりと暮れていました。