金峰山は奥秩父の盟主です。その標高は北奥千丈岳に譲るものの、特徴のある五畳岩を頭に載せたその姿は、遠くからもよく目立つ山です。瑞牆山とともに深田久弥氏の日本百名山のひとつに名を連ねる山です。
富士見小屋からの山行では山小屋での一泊を余儀なくされる金峰山も、大弛峠から稜線に沿って続く登山道をたどると、簡単にその山頂を踏むことができます。
大弛峠の道端に車を停め、コメツガの中の登山口から稜線を目指すことにします。暗い林の中を登る登山道は、最初からかなりきつい急坂。歩き始めの体にはなかなか疲れる登りです。たどり着いた稜線上の岩場からは視界が開け、右手にはこれから登る朝日岳、その向こうには五畳岩を頭に乗せた金峰山。目の前には黒く連なる南アルプスの稜線。振り返ると薄く棚引く雲の上に、富士山が黒いシルエットとなって浮かんでいます。まさに360度の大パノラマです。
小さく下った鞍部が朝日峠。ここからコメツガの稜線を登り返すと広く開けた岩場の上にたどり着きます。目の前には長く連なる八ヶ岳の稜線。ひときわ高いピークは主峰の赤岳です。それから連なる尾根は横岳から硫黄岳、天狗岳の頂。少し離れた頂は蓼科山です。この展望を楽しみながら小休止です。
小休止の後、コメツガの林の中を少し登ると朝日岳の山頂です。目の前は大きく開け、これから登る金峰山の山頂がそびえていました。
朝日岳からは急なガレ場を下って行きます。下ったところは朝日岳西のコルと言われる所。夏場にはコバイケイソウの花が咲き乱れるところです。ここからは鉄山を巻くように暗いコメツガの林の中を登って行きます。しばらく登るとシャクナゲが目立つ尾根道を登るようになります。やがて山頂からの喧騒が近づいてくると金峰山の東の肩です。目の前には恐竜の背中を思わせるような瑞牆山の岩峰。右手遠くには先日登った御座山が霞んでいます。ここから先は岩の積み重なるハイマツの稜線。山頂を示す標柱の先には大きな五畳岩がそびえていました。
大弛峠に停まっていた車の数から想像はできましたが、山頂はすでにたくさんの人で溢れています。我々も五畳岩の下に腰を下ろし昼食とします。
昼食の後、目の前に広がる展望を眺めながら山岳同定を楽しむことにします。暫くすると南アルプス側から雲が湧き上がってきましたが、奥秩父側は最後まで広い展望が開けていました。
山頂での展望を楽しんだ後、大弛峠に向かって下って行くことにします。コメツガの林の中を緩やかに下って行く道は歩きやすいものの、疲れた足にはなかなか辛い道です。朝日岳に向かって登る急坂では思わず息も上ってしまいそうです。ようやく大弛峠にたどり着いたときはすでに4時半を回っていました。傾きかけた日を浴びながら五畳岩が我々を見送っていました。