大弛峠は標高2,370メートル。日本でも有数の高所にある峠です。奥秩父の再深部を縦断する峠だけあって、この峠からは国師ヶ岳や北奥千丈岳、また今回訪ねる金峰山も一投足の距離と言います。交通の便はタクシーかマイカー以外にはないものの、奥秩父、再深部の山が日帰りで登れるのは何よりの魅力です。
中央自動車道の勝沼インターから巨峰の丘とも呼ばれる牧丘へ。ここからクリスタルラインと呼ばれる林道をジグザグに登って行くと金峰牧場。ここからさらに川上牧丘林道を大弛峠へと登って行きます。ほどなく道は全く舗装のされていないダートコースとなります。車高の低い乗用車では腹を摺りそうで思うように走ることができません。左手に目指す金峰山の山頂が見えてくると大弛峠です。すでに道の両側にはたくさんの車が停まっていました。
大弛峠からは針葉樹の林の中を朝日峠へと登り始めます。この付近一帯は雪解けの直後のようで、木陰にはまだ残雪が残っています。到木が登山道を覆う登り坂に息を切らせながら高度を上げて行くと、やがて朝日岳の東端の肩にたどり着きました。ここからは北八ヶ岳の縞枯れのような明るい尾根道です。たどり着いた朝日岳の山頂にはベンチが一つ。正面には五丈岩を頭に乗せた金峰山が、左手には小楢山や帯那山など塩山の山々が霞んでいました。
朝日岳からはガレ場を下ることになります。たどりついた鞍部からは樹林帯の中を緩やかに登り返して行きます。鉄山のピークの北側を巻いて緩やかな登りに汗を流すと、明るいハイマツ帯の中をたどる道。目指す金峰山の山頂は指呼の間です。
たどり着いた山頂には大きな岩が折り重なり、アルペンの雰囲気を感じさせてくれるところです。目の前には金峰山のシンボルである五丈岩が逆光を浴びながら天に向かってそそり立っていました。正面遠くには八ヶ岳の重畳と連なる山並み、その手前にはゴツゴツした岩峰がそそり立つ瑞牆山。さすが奥秩父の盟主と呼ぶにふさわしい眺めです。
山頂で昼食の後、往路をたどり大弛峠を戻ることとしました。左手眼下には小川山の切り立った岩尾根が霞んでいます。緩やかな尾根道を下って行くと、やがて朝日岳への急なガレ場の登りにたどり着きます。疲れ始めた身体にはなかなか応えるガレ場です。
たどり着いた朝日岳からは、午後の日に霞んだ大きな五丈岩。遠く霞むスカイラインは南アルプスの山々です。残念ながら左手に見える筈の富士山は霞の中に溶け込みその姿を見せてくれません。山頂のベンチには数人のハイカーが腰を降ろしていました。話を聞くと「学生時代、この山へのアプローチは、徳和から石橘花新道をたどる長い道を利用していた・・・」と言います。今では石橘花新道は利用する人も稀で廃道に近いようです。
ようやくたどり着いた大弛峠からは、再びダートな林道に悩まされながら金峰牧場を目指すこととします。振り返る五丈岩は湧き上がる雲にその姿を隠していました。
奥秩父の山々はようやく長い冬の眠りから覚めたようです。日陰にはまだ残雪が残っているようですが、金峰山の山頂にはキバナシャクナゲが咲き始めていました。岩の間にはミネズオウの小さな花を見つけることができました。