秩父御岳山は木曽駒ヶ岳を開山した普寛上人によって開かれた信仰の山です。目の前には雲取山や和名倉山などを始めとする奥秩父の稜線上に連なる山々が広がる好展望の山として知られています。また山頂直下の王滝沢にはナメや小滝などもあり、小さいながらも渓谷美を堪能できる山です。
秩父鉄道の三峰口駅を降り立つと秩父湖行きの西武バスが待っていました。荒川の上流に深く削った渓谷を車窓から眺めながらしばらく走ると、バスは登山口のある落合にたどり着きました。
バス停に降りると、国道の右手に御嵩山普寛神社の赤い鳥居が建っています。ここからしばらく登ると庵之沢稲荷の小さな祠があります。登山道はここら暗い王滝沢を登り始めます。いくつかの堰堤や小さな滝を眺めながら高度を上げて行きます。流れの中を飛び石伝いに左、右に渡り返しながら登って行きます。振り返ると山頂を雲に隠した三峰山がその姿を見せてくれました。
やがて登山道は沢を離れ左手の杉林の中を登り始めます。たどり着いた尾根は両神村との境界をなす尾根ですが、雲の中に入っているため視界はまったく望めません。露岩の多い痩せた尾根は両神村側が切れ落ちているようです。両側の木々もいつしかツツジ等の低木に変わると御岳神社の小さな祠の裏に飛び出しました。小さな山頂に建つ鳥居と石の祠、これを取り巻く赤い旗が燃えるような新緑に包まれています。
御岳神社の傍らで休息をしている間に山頂を覆っていた雲が晴れ、目の前に広い展望が開けてきました。北の方には両神山の鋸のような稜線とこれから続く長い尾根、左手には青く水をたたえた秩父湖とその上に雲を頂いた和名倉山(白石山)、振り返ると三峰神社とこれから続く三峰山の尾根を眺望することができます。
展望を楽しんだ後、山頂に別れを告げ下山を開始します。山頂をしばらく下ったところに古池への分岐点を示す指導標があります。ガイドブックの案内ではこの分岐を左に降りなければならないようですが、過って右の伐採された道を強石側に降りてしまいました。しかし、この稜線から眺める奥秩父の展望もまた非常にすばらしいものです。すっかり晴れ上がった5月の空に、妙法ヶ岳とこれから続く雲取山、その奥になだらかな山頂をした飛竜山から続く奥秩父の山並み。思わず足を止めカメラのファインターを覗きこんでしまいました。
ここからは、露岩の多い痩せた尾根を下り始めます。しばらく下ると登山道もなだらかになり、落ち葉の積もった気持ちの良い尾根道となります。さらにしばらく下ったところが杉ノ峠。赤い屋根をした休憩所がたっていました。
休憩所からは、暗い杉林の中をジグザグに高度を落として行きます。やがて道は強石の集落の裏手に飛び出しました。ここから国道までアスファルトで舗装された車道を下って行きます。国道から三峰口までは凡そ30分。猪ノ鼻の郵便局を越え、白川橋で荒川を渡れば目指す三峰口の駅は目の前です。
王滝沢の急な登りには初夏の山を彩る花が咲いていました。お馴染みのタチツボスミレなどのほか、チゴユリやマムシグサ、キケマン、ムラサキケマンなどが咲いていました。山はあまり高くないので高山に咲く花は無いものの花の種類も結構多いようです。