川端康成の名作、伊豆の踊り子は中学校のころ読んだ記憶があります。伊豆下田から峠を越えようとする旅の踊り子と若い書生の淡い恋物語で幾度か映画化もされている名作です。踊り子の一行があえぎながら急な峠道を登って行く様子が、小説にも綴られていました。その舞台となった峠が天城峠です。今日は、モミやツガなどの生い茂る天城峠から、天城火山の火口原湖である八丁池を周遊するのびやかなコースに、初夏の一日を過ごしてみました。
東名高速道路から沼津インターへ。ここからは一般道に降り、下田街道を修善寺温泉街に向かいます。下船原からさらにしばらく走ると湯ヶ島温泉にたどり着きました。
温泉街から天城峠に向け国道を登って行くと、河津の大滝とともに伊豆の名瀑の一つに数えられている浄漣の滝にたどり着きます。石川さゆりの天城越えにも歌われ、中伊豆屈指の観光地として賑わっているところです。広い駐車場に車を停め急な石段を下って行くと、正面に高さ25メートル、幅7メートルほどの滝が雨上がりの水を集め白い水しぶきを上げていました。付近は山葵の本場のようで、土産物屋の店先は山葵や山葵を使ったお土産で埋め尽くされていました。
浄蓮の滝からはカーブの多くなりはじめた国道を天城峠に向かい登って行きます。やがて右手に水生地下の小さな駐車場が現われました。ここからは国道を離れモミやツガなどの雑木林の中をたどる旧道を水生地へ。道の途中には川端康成の文学碑が建っています。更に道を進んだところが水生地。遊歩道の案内板の脇に車を停め、旧天城トンネルへと向かうこととしました。この下を新道が通るようになってから、通る車も無くなったトンネルの傍らに目指す登山口の指導標が建っています。
旧天城トンネルから道はブナやヒメシャラなどの明るい雑木林の中をたどる登りになります。しかし登りもわずか。しばらくすると上り御幸歩道といわれる緩やかなハイキングコースとなります。左手の視界は広く開け、目の前には万三郎、万二郎岳の緩やかな山頂がその姿を見せてくれます。新緑のすがすがしさを身体一杯に浴びながら歩くハイキングコースは心地よい道です。
やがで、アセビの林の中をたどるようになると、左手より寒天園地からの道を合わせ、見晴らし台の入り口にたどり着きました。道を左手に折れると小尾根の上に建つ鉄骨造りの展望台です。目の前には青く水を湛えた小さな八丁池。残念なが薄い霞みに覆われ展望は期待できません。
ここから緩やかな坂道を下って行くと八丁池の湖畔にたどり着きました。森に囲まれ、ひっそりと静まり返る池は天城火山の火口湖で、四季を通じ水が枯れることがないと言われています。
八丁池で昼食の後、水生地へと下って行くこととします。アセビのトンネルの中をしばらく下ると、やがて道は心地よいブナの林の中を緩やかに下って行く道になります。林道を横切ると道は次第に荒れはじめ、昨日降った雨が登山道に溢れています。道を間違った訳ではないようですが、かなり荒れた下りです。ようやくたどり着いた林道をしばらく下って行くと、今朝、車を停めた水生地の橋の前にたどり着きました。