房総の南端、千倉の近くに花嫁街道と言うハイキングコースがあります。岩崎元朗氏が選んだ新日本百名山のひとつに選ばれている山です。花嫁街道と言うロマンチックな名前を持ち古い歴史を今に伝えるコースですが、百名山の一つに選ぶには余りにも背丈が足りないようです。しかし木々の芽吹きも始まらないこの時期、暖かい房総を訪ねての軽い山旅として、中高年や家族連れなど多くのハイカーでにぎわう山です。
JRの普通電車を乗り継ぎおよそ3時間、降り立った和田浦の駅はあまり人影もありません。駅前から低い房総の山並みを眺めながら舗装道を歩いて行きます。まだ少し時期が早いのか、道端のビニールハウスの中のポピーもまだ固い蕾のままでした。
内房線の踏切を渡りしばらく登ると花嫁街道の入口です。道端の駐車スペースにはすでに数台の車が停まっていました。ここからは暗いヒノキの林の中を登って行きます。花嫁街道と呼ばれるこの道は、山の集落から浜辺の集落に嫁ぐ花嫁がたどった道、往時の生活道路として利用されていた道です。しばらく登ったところが第1展望台、さらにしばらく登ったところで道を右に折れると第2展望台です。202mの標柱が建つ展望台からは木立の覆われた里山の先に房総の海が広がっていました。
展望台からも木立に覆われた稜線の上をたどる道が続いています。梢の先に烏場山の山頂が見えるところもありますが、あまり展望が期待でない道が続いています。しばらく登ったところが経文石、昔はこの石に梵字が刻まれていた言いますが、今は大きな石を抱いた木が目立つだけです。さらにしばらく進むとじがい水。山中に開かれたかくし田の水利に利用されたものと言いますが、今は畑の痕跡さえも見当たりません。
緩やかに登って行く尾根道は五十蔵へと下って行く道を左に分けます。やがて右手の視界が開けるとカヤ場という広場にたどり着きました。広場の一角に腰を下ろし広い展望を楽しみながら昼食です。晴れていれば房総の海の中に大島などの島影が浮かんでいると言いますが、あいにくの曇り空の下では視程はいま一つです。
昼食ののち烏場山に向かいます。木の階段をひと登りした小高いこぶが烏場山。狭い山頂には新日本百名山と書かれた標柱が打ち付けられています。ここからは低く続く房総の山並みを楽しむことができます。レーダードームを頭に乗せた小さな頂は房総の最高点である愛宕山。その山頂は自衛隊の管理となっているため事前に連絡しなければ山頂を踏むことが出来ないとか。左に目を移すと伊予ヶ岳の岩峰、さらにその左には富山の頂が続いていました。
烏場山からは花婿街道と呼ばれる尾根伝いの道を下って行きます。途中には旧烏場山など展望が開けるところもありますが、視界が利かない林の中を緩やかに下って行く道が続いています。小さなこぶを幾つか越えたところが展望台。ここで最後の小休止です。目の前に広がる房総の海、その手前には和田の街並みを望むことができます。
ここからしばらく下ると道は木の階段を黒滝へと下っていきます。途中には小さな祠と、向西坊が入定したと伝えられる岩窟。滝音が響く小さな沢はなぜが暗い雰囲気が漂うところです。
飛び石をたどりつめたい水が流れる沢を抜けると山茶花の花が咲くはなぞの広場にたどり着きました。ここからは舗装道路をたどり和田浦の駅に戻ることにします。
房総の電車の便はあまり良いとは言い難いものです。この次の電車を逃すと1時間程待たなければならないようです。途中、花等も売っていましたが帰りの電車を急いだほうが賢明のようです。