400メートルに満たない丘陵が続く房総の山々のなかにも、南総里見八犬伝ゆかりの富山や鋭い岩壁をめぐらせた鋸山など、ハイキングの対象になりそうな山々があります。高宕山もそのひとつで、房総半島のほぼ中央にあり、野猿が生息していることでも有名な山です。また登山口である石射太郎山は、関東大震災までたくさんの石材を切り出したところで、巨人伝説の一つ台田久保の言い伝えを今に残すところです。
法ノ木トンネルの脇にある駐車場に車を停め、暗い杉林の中を緩やかに登りはじめます。古い石の階段をひと登りすると石射太郎山の石切り場です。この山には台田久保という巨人の伝説が残っています。関東や近畿に残っているダイタラボッチの巨人伝説と似たような言い伝えなのでしょうか。また明治時代から大正時代にかけては、石材の切り出しが盛んに行われていたと言います。登山道の傍らには、石材を切り出した跡が残っていました。たどり着いた稜線には東屋とサルの餌付け小屋が建っています。明るい冬晴れの光の下、目の前には高宕山から八良塚への稜線が続いていました。
関東ふれあいの道として整備された登山道は明るい稜線を緩やかにたどる道です。冬枯れの雑木林の間から、真っ白に雪を被った富士山がその姿を見せてくれます。登山道は緩やかに鞍部に向かって下って行きます。ほどなく目の前に小高い岩山が見えてくると高宕観音への急な石段が始まります。江戸時代に建てられたという苔むした狛犬や仁王像を見ながら急な石段を登って行くと高宕観音。仰ぎ見るような岩壁の下に赤い屋根のお堂が建っていました。
右手の岩壁をくりぬいたトンネルを潜り抜けると、高宕山直下への急な登りです。鉄の梯子を登ると山頂直下の露岩の稜線。目指す山頂は小高い岩の上にありました。山頂からは標高320メートルとは思えない広い展望を楽しむことができます。冬枯れの杉林に覆われた房総の山々がうねうねと連なり、思いのほか近くに見える湘南の海岸線の上に白い雪を被った富士山がそびえていました。
展望を楽しんだ後、高宕観音に戻ることにします。お堂の前でピクニックシートを広げ遅いお弁当です。目の前を低く飛んでいくのは、成田へと向かう国際便のジャンボ機でしょうか。途中で出会った地元の人の話では、野サルが住んでいるのは反対側の山筋とか、最近は見かけることも少なくなったと言います。
昼食の後、往路を石射太郎山へと戻ることとします。明るい陽射しに包まれた遊歩道には、アオキなどの常緑樹が目立つものの、まだ緑の芽吹きには多少時間が必要のようです。