男体山は今から1200年前、勝道上人によって開かれた信仰の山です。中禅寺湖の湖半に鎮座する二荒山神社の神体として、古くから山岳宗教の中心として栄えたところです。登山シーズンは5月の末から10月にかけてですが、毎年7月末から数日の登拝祭期間中は夜間の登山も許され、午前零時を合図にたくさんのハイカーが山頂を目指していると言います。
登山道は二荒山神社の境内から登る表登山道にほか、志津林道の志津小屋から登る道が開かれています。志津小屋は標高1,780mにあるため、比較的簡単に山頂に立てるコースです。今日は志津小屋から山頂を目指すことにします。
登山口である志津小屋の傍らには山岳信仰の山だけあって、二荒山神社の鳥居と小さな社が建っています。ここからは暗いコメツガの林の中を登って行きます。次第に傾斜を増す急坂にあえぎながら高度を上げて行きます。1合目、2合目と書かれた標柱に励まされながら高度を上げていくと、左手が大きく崩壊した鼻毛ノ薙。視界は大きく開け、目の前に赤薙山と女峰山の大きな姿がそびえていました。
気温はかなり低くなっているようで、むしろ寒いくらいです。目の前の小尾根に向かって急なガレ場を登って行きます。高度を上げるにつれ視界が開け、登山道は明るい尾根道を登って行くようになります。すでに紅葉が終わったコイワカガミやゴゼンタチバナなどの枯れ葉が目立つようになってきます。霜柱の立つ急な坂道にひとあえぎすると、山頂から続く爆裂火口を取り囲む稜線にたどり着きました。右手は大きく開け、目の前には頭を雲に隠した日光白根山、右手に目を移すと太郎山と大真名子山。なかなか素晴らしい眺めです。
シャクナゲが目立つ緩やかな稜線をしばらく進むと、岩が積み重なるコブのような男体山の山頂です。山頂を示す標柱の傍には、真っ赤に錆付いた鉄剣が天に向かって立っていました。山頂には二荒山神社の奥ノ院の社と、立派な社務所が建っていました。信仰の山だけあって、社の傍には大きな神像が立っています。目の前には青く水をたたえる中禅寺湖。その向こうの山々は皇海山など、まだ足を踏み入れたことのない山域です。
案内板には富士山が見えると紹介してありました。しかし今日は雲に隠れその姿を見せてはくれないようです。しばらくすると雲が低く垂れ込め、日光白根の山頂を覆い隠し始めてきました。気温もかなり低くなっているのか、黙っていると手も冷たくなってきます。そろそろ山は冬の訪れを告げ始めているようです。
山頂で昼食の後、志津小屋を目指して下り始めることにしました。強い風の吹き抜ける稜線の梢にはすでに霧氷の花が咲き始めています。この山域はすでに冬の足跡が着実に近づいているようです。途中で声をかけた二人連れは地元の人。早い年は9月23日に雪に降られたことがあるとか。冬の訪れは北海道とあまり変わらないのかもしれません。目の前の大真名子山や小真名子山もなかなか趣のある山とか。男体山と同じように、古くから山岳信仰の対象になった山と言います。暫く下ると空から白いものがチラホラ。まだ本格的な雪ではないものの、さすが寒いのも頷けるものです。