鳴虫山は日光連山の前衛峰として、女峰山、男体山などの山々と大谷川を隔て対峙する標高1,000mほどの低山です。その名前からも容易に想像できるように、この山に雲がかかるとやがて日光でも雨が降ると言われた山です。日光市街からのアプローチも短く、登山道も良く整備されていることから、気軽な日帰りハイキングが楽しめる山としてガイドブックにも紹介されています。
東武日光駅の駅前からおよそ15分。日光消防署のそばを左折し志渡渕川を渡ると、大きな案内板の建つ鳴虫山の登山口です。
ここからは山桜の花びらが舞い散る雑木林の中をジグザクに登り始めます。しばらく登ると右手に天王山神社の小さな鳥居。数人の女性パーティが展望を楽しんでいました。ここから暗い杉や桧の植林帯の中をひと登りすると神ノ主山の肩から続く尾根です。松原町から登ってくる道を合わせ、展望の開けた草尾根ににひと汗を流すと、木のベンチが置かれている神ノ主山の山頂にたどり着きました。
山頂からは北側が大きく開け、右手には丸い霧降高原の丸山、ゴツゴツとした岩峰に白い残雪の化粧をした赤薙山、女峰山、大真名子山とひときわ大きな男体山。その山腹には薙(なぎ)と言われる枯れ谷が刻まれています。左手にはこれから登るなだらかな頭をもたげる鳴虫山。その向こうには茶ノ木平から薬師岳、夕日岳と続く稜線が見えていました。
神ノ主山からは尾根伝いに鳴虫山へと向かうことにします。たどる尾根道は左手が杉や桧の人工林、右手はまだ若葉が芽吹き始めたばかりの明るい雑木林です。残念ながら展望はあまりききません。
幾つかの小さなアップダウンに息を切らせると、小広い広場となっている鳴虫山の山頂にたどり着きました。雑木林に囲まれた山頂はまだ若葉も芽吹いていないようで、正面の赤薙山、女峰山、男体山を始めとして眼下の日光市街など、広い展望を楽しむことができます。
山頂で昼食の後、合峰を経て日光市街へ下ることにします。山頂から急な坂道を下ると露岩の多いやせ尾根をたどる道。多少のアップダウンはあるものの、なかなか心地よい尾根道が続いています。しばらく下ると視界が広く開けた合峰です。この小さな頂も、目の前に迫る女峰山や男体山が眺められるところです。
合峰からは急な坂道を植林帯の中へと下って行きます。幾つかの小さなコブを越え登り返した頂が独標。ここからも正面の視界が大きく開け、ますます高くなった女峰山や男体山がそびえていました。
ここで最後の展望を楽しんだ後、暗い植林帯の中をジグザグに下って行きます。国道を越えしばらく下った所が含満驟雨(がんまんしゅうう)として日光八景のひとつに数えられている含満ガ渕。折からの雪解け水を集めた大谷川が、両岸の岩を噛み砕き、白い水しぶきを上げています。岩の上には霊比閣という東屋が建っていました。ここの河原に腰を下ろし岩を砕く川の音に耳を傾けながら、今日最後の小休止としました。
含満ガ渕からは東武日光駅に戻ることにします。大谷川沿いの広い遊歩道には、並び地蔵と言われる70あまりの古びた石仏が立っています。何度数えてもその数が違うことから化地蔵とも言われているとか。しばらく進むと芝生の敷き詰められた小公園です。やはり都内に比べ春はまだこれからのようで、ソメイヨシノが今を盛りと咲き誇っています。ヤエザクラもようやくピンクの蕾をほころばせていました。
含満橋を渡り、大谷川に沿ってしばらく下ると国道に飛び出します。ここからは全くの観光地。たくさんの観光客と一緒に東武日光駅に向かうことにしました。
鳴虫山の明るい稜線はまさに春が始まったばかりです。所々にはピンクの花を付けたアカヤシオが咲いています。期待していたミツバツツジはまだ花を付けていません。
雑木林の中にはカタクリの花が可憐な姿を見せています。二枚の葉の間から長い茎を延ばし、うつむき加減にピンクの花を風に揺らせている姿は、まさに春の野を彩る可憐な少女を連想させる花です。