白山は富士山、立山とともに日本三名山の一つに数えられ、古くからの信仰の山として知られています。山頂に祭られる白山神社は、岐阜の525社を筆頭として、全国2,716社の白山神社の総本社と言います。白山を開いた泰澄大師は山頂近くの転法輪ノ岩屋にこもり、翠ヶ池の近くで修行をしたと伝えられています。山頂一帯の地名にも、御前峰、釈迦、弥陀ヶ原など、仏教に因んだ名前が多く残っています。
昨日は庄川近くの閑乗寺公園キャンプ場で一夜を過ごしました。ここから一般道をたどり登山口である白峰村までおよそ97km。別当出会いの駐車場にたどり着いたのは11時になろうとしていました。
(12日)
別当出会 -0:35→ 中飯場 -0:45→ 別当覗 -0:45→ 甚ノ助ヒュッテ -0:20→ 南竜ヶ馬場分岐 -0:50→ 黒ボコ岩 -0:30→ 室堂(宿泊)
(13日)
室堂 -0:30→ 御前峰 -1:20→ 室堂 -0:30→ 黒ボコ岩 -1:00→ 殿ヶ池ヒュッテ -1:50→ 市兵衛茶屋跡 -0:20→ 別当出会
別当出合いの休息所からは柳谷川に沿った明るい広葉樹の林の中を登りはじめます。やはり富山や金沢の人が多いようで、親に手を引かれた小さな子供もかなり登っています。やがて目の前に林道が現れると中飯場。砂防工事を行っているようで、林道の傍には建設機械などが停めてあります。正面の沢の奥には白く飛沫を上げる不動滝が懸っていました。
中飯場からは明るい樹林帯の中をジグザグに高度を上げて行きます。右手に見える稜線は大屏風といわれる長い稜線で、その先には小高い別山がそびえています。やがて左手が大きく開けとる別当覗きです。
別当覗きで昼食の後、ジグザグを繰り返すたびに高度を上げて行くと、ログハウスのような造りをした甚ノ助ヒュッテです。
甚ノ助ヒュッテからしばらく登ると、道は二手に分かれます。右手の道は南竜ヶ馬場に向かう道。白山のキャンプ指定地は南竜ヶ馬場にあるようで、大きなリュックサックを担いだ数人の若者は右手に向かって行きました。
ここで道を左に折れ、幾つかの小沢を渡りながら黒ボコ岩へと登って行きます。そろそろ森林限界を超えたようで、高茎草原を彩る夏の花が目を楽しませてくれます。ここからは十二曲がりと言う稜線上の急坂です。岩の間からチョロチョロと流れる延命水で喉を潤すと、ほどなく黒ボコ岩にたどり着きました。
ここはすでに弥陀ヶ原の一角。すっかり乾燥化が進んだ草原の中に、石が敷き詰められた広い道が続いています。雨こそ降ってこないものの、時々遠雷が聞こえてきます。このような場所で雷には遭いたくないものです。やがて左手からエコーラインの道を合わせると、ハイ松帯の中を緩やかに登る道。やがて霧の中から赤い屋根が見えてくると目指す室堂です。
たどり着いた室堂はたくさんのハイカーで溢れています。案内された宿泊棟は山小屋としては立派な造りで、2段ベッドには小さいながらも一人用の蒲団が敷いてあります。北岳や白馬岳では、夏の最盛期ともなると畳1枚に3人で寝なければならないようなひどい混雑。それと比べれば立山も白山も恵まれたものです。しかし夕食はお世辞にも美味とは言えません。荷揚げを人力に頼っているのであれば贅沢を言えるものでないでしょうが。
4時過ぎ、白山神社の大太鼓の音で目を覚ましました。外はまだ霧の中ですが、白山神社の神主が先導し登拝を行うと言います。急いで雨具を着込み山頂へ。すでにたくさんのハイカーが懐中電灯やヘッドランプの明かりを頼りに山頂へ急いでいました。
たどり着いた御前峰は白山の最高峰です。すでにたくさんの人がご来光を待っています。我々も岩に腰を下ろし、明るくなりはじめた東の空を眺めることにしました。しかし低く垂れ込めた霧は、晴れてくれそうにありません。一瞬、霧の中に明かりが差したのが日の出でしょうか。あきらめて山頂神社の前で行われるお祓いを受けることとしました。神主さんが祝詞を上げている最中、突然霧が晴れあがり低い雲の下に遠く北アルプスの稜線までがその姿を見せてくれます。神主さんの説明によるとこの数日、山頂からはこのような展望を見ることができなかったとか。昨日の天気を考えると、かなりラッキーな話です。
正面、遠くに霞む長い稜線は北アルプスの峰々。右手の頂は乗鞍岳、左手に連なる峰々は穂高から槍ヶ岳にかけての山々です。目の前には霧の中から頭をのぞかせる剣ヶ峰と大汝峰。その間には翠ガ池をはじめとする山上湖がエメラルド色をした水をたたえていました。この広い展望に時が過ぎるのを忘れているのは我々だけではないようです。
山頂からは、お池めぐりコースをたどり室堂へ戻ることにします。岩だらけの御前峰の山頂から火口原に下って行きます。天柱石の奇妙な姿を見ながら火口原に降り立つと小さな紺屋ヶ池。やはり高山なのか真夏とはいいながら雪渓が残っています。指導標に従いながら道を進めると油ヶ池と翠ヶ池。山頂からでは判りませんでしたが、火口原は大きな岩や池が点在し複雑な地形を形成しています。
やがて道は千蛇ヶ池のほとりに出ました。夏でも湖面が雪渓に覆われている沼で、泰澄大師が千匹の悪蛇を万年雪の中に閉じ込めたと伝えられているところです。付近一帯はお花畑になっています。目を凝らすと草原の中に黒百合が群生しています。仙丈ヶ岳の山頂直下で見付けたことはありますが、これだけの群生を見るのは初めてです。
たどり着いた室堂で朝食。山の朝食は早いのが常識ですが、朝食前に山頂をめぐってくると、ゆっくりとした時間に朝食をとることができます。朝食の後、お弁当を受け取り室堂に別れを告げることにしました。
帰路は観光新道をたどり、別当出合いへ戻ることとします。黒ボコ岩で砂防新道を左手に分け尾根筋を下って行きます。明るい斜面は夏の花が咲き乱れるお花畑です。
登山道を下るにつれ谷筋から霧が舞い上がってきました。晴れていれば眼下に大きな眺望が期待できるこの道も、足元の花々を愛でながら下って行くだけの道になってしまいました。やがてダケカンバやアオモリトドマツが現れはじめると殿ヶ池ヒュッテです。殿ヶ池は池と言うより小さな水溜といったところです。
ヒュッテの裏手で小休止した後、ふたたび観光新道の急な坂道を下って行きます。道端にはマツムシソウが薄紫の花を付けていました。そろそろこの付近には秋が近づいているようです。大きな岩を越えると登山道は別当沢に向かい急な斜面を下って行くようになります。雨の後で濡れた岩は滑りやすく、なかなか気を使う下り坂。やがて林道を横切ると市兵衛茶屋跡です。たくさんの人が最後の休憩をしていました。
ここから広葉樹の林の中を緩やかに下って行くと、別当出合いの休憩場。先ほどから広がっていた空からは、大粒の雨が降り始めて来ました。快晴に恵まれたわけではないものの、一昨日の立山。今日の白山。いずれも天候には恵まれていたようです。
すでに花の時期は過ぎたとは言いながら白山は花に恵まれた山です。白山の名前を頭に付けた花だけでもハクサンフウロウ、ハクサンボウフウ、ハクサントリカブト、ハクサンシャジン。ハクサンフウロウは日本各地に咲く花ですが、この山で見るとひときわ鮮やかに見えるのは気のせいでしょうか。黒ボコ岩から少し下った高茎草原のお花畑には、ホザキシモツケ、イブキトラノオ、ヤマハハコなど。花の種類も数もかなり多いお花畑です。
沼めぐりの帰り道、千蛇ヶ池近くのお花畑には、アオノツガザクラ、イワカガミ、コケモモなどが咲いていました。他の山ではあまり見る機会のないクロユリも群生していました。
観光新道を下って行くと、登山道にはマツムシソウが咲いていました。この付近はすでに秋の花が咲きはじめているようです。