北アルプスの北端、後立山連峰にそびえる白馬岳は北アルプスの女王と言われ、日本三大雪渓の一つに数えられる白馬大雪渓と、山頂付近に点在するお花畑でたくさんのハイカーを魅了した山です。また深田久弥の日本百名山にも名前を連ねた山です。
「代馬岳という名の起こりは、山の一角に、残雪の消えた跡が馬の形になって現われるからであった。田植えにかかる前の苗代掻をする頃この馬の形が見え始めるので、苗代馬の意味で代馬と呼んでいたという・・・」と日本百名山にも紹介されているように、白馬岳の山名は山腹に現れる雪形に因んだものと言います。
新宿発の夜行急行アルプスで白馬駅へ。たどり着いた白馬駅前はすでにたくさんの登山客で溢れています。警察官が登山カードを提出させています。「行程、雨具、非常食の有無、トランシーバーの有無・・」なかなかチェックも厳しいものです。駅前から松本電鉄バスで猿倉に向かいます。たどり着いた猿倉には大きな猿倉山荘が建っていました。
(14日)
猿倉山荘 -0:55→ 白馬尻 -1:00→ 大雪渓 -2:50→ 村営頂上宿舎 -0:15→ 白馬山荘(宿泊)
(15日)
白馬山荘 -0:15→ 白馬岳 -1:10→ 小蓮華山 -1:15→ 白馬大池 -0:35→ 乗鞍岳 -1:20→ 天狗原 -0:40→ 栂池 -(自然園散策)→ 栂池バス停
猿倉山荘の裏からジグザクに登山道を登り始めます。しばらく登ると曇が切れ、朝の光に白馬岳の大きな山頂が顔をのぞかせてくれます。セト岩の堰提から岩のゴロゴロした登山道を登って行くと、2軒の山小屋が建つ白馬尻にたどり着きました。正面にはこれから登る大雪渓。見上げると切り立った白馬岳の岩峰が目の前にせまっています。
白馬尻からは大雪の渓末端に向かい沢沿いの道を登っていきます。たどり着いた大雪渓の末端にはコンクリートのケルンが建っています。雪の多い時期はここからアイゼンを履き、雪渓を登り始めとか。しかし今年は雪が少ないため雪渓にはクレバスができているようです。このため登山道は左手の秋の道をたどることと言います。雪渓ではスキーヤーが2人。ポールを立ててスキーを楽しんでいました。
しばらく秋の道を登って行くと三合尾根。標高はすでに1,940mになっています。ここからは軽アイゼンを履き雪渓の上を登って行きます。雪渓には適当な間隔でスプーンカットができ、思いのほか登りやすいものです。雪渓の上には杓子尾根からの落石が転がっていました。中にはコブシ大や人の頭ほどの石もあるいます。このためコースは雪渓の右手を取るようになります。雪渓を渡る風がガスを巻き起こすようで、目指す白馬岳の山頂や左手に見える杓子尾根は、いつかにガスに隠れてしいまいました。四合尾根の付近からはアイゼンをはずし、右手の秋の道を登るようになります。
しばらく急な登りに息を切らせると大雪渓の上部。小雪渓からの雪解け水を集めた小滝を渡り、岩のゴロゴロした尾根状の登山道を登って行くと、非難小屋の石室が建つ葱平です。
ここからは、登山道の両脇の花を眺めながら急な登りを登って行きます。登り切った凹地は小雪渓。この時期小雪渓にはすでに雪も消え、小石の多い登山道は本格的なお花畑の中を登って行きます。やがて右手の沢が近付くと再び登りも急になってきます。ここで気にしていた雨が落ち始めてきました。ガスも深くなり視界もほとんど利きません。仕方なく雨具に身を固め、村営の頂上宿舎に向かうこととします。しばらく登るとガスの中から大きな頂上宿舎が現われまました。ここの売店でコーヒーを飲みながら小休止です。
雨は一向に止みそうもありません。しかたなく再びガスの中を白馬山荘に向かうことにします。しばらく急な坂道を登って行くと、今夜の宿泊場所である白馬山荘にたどり着きました。
白馬山荘ではさっそく宿泊手続きをしました。今日はたくさんの宿泊客が予想されるため1畳に約2人のスシ詰めと言います。夏山の常とは言いながら、好きになれないと思うのは我々だけでしょうか。夕食は5時10分から。大食堂は200人ほど入れる大きな食堂ですが、6交替で食事をすると言います。下界のレストランとは比べ物にならないのは当然ですが、まずまずの献立です。夕食の後、窓の外を眺めるとガスも晴れはじめ白馬岳の山頂が見えています。食後のひと運動にと山頂に向かうことにしました。
白馬山荘から山頂までは凡そ20分。山頂は信州側が深く切れ落ちていますが、日本海側は比較的なだらかな尾根が続いています。これは白馬岳の地形が逆断層のためとか。山頂でしばらく待っていると、左手に小蓮華山、右手に杓子岳がガスの間よりその姿を見せてくれました。しかし山頂の展望もほんのつかの間、また巻き上がるガスに視界も遮られてしまいました。
4時半ごろ目を覚まします。山小屋の管理人さんの話では、今日も一日中雨が降り続くと言います。5時過ぎ大食堂で朝食を食べた後、頼んだ弁当を受け取り栂池に向かうことにします。ひとまず白馬岳山頂まで登って行きますが、舞い上がるガスに視界はほとんど利きません。音を立てて吹き付ける風はかなり強いものの、雨は思いのほか強くありません。
山頂からは小蓮華山に向かい尾根道を下って行きます。右手は深く切れこんだ断崖になっていますが、ガスが深いためかあまり高度は感じられません。稜線を下って行くと岩陰から急にライチョウが道に飛び出してきました。人馴れしているのか、かなり近くで高山植物をついばんでいました。しばらくなだらかな尾根道をたどると三国境です。左手の道は鉢ガ岳、雪倉岳を経て朝日岳に向かう道。我々は右手の道を小蓮華山に向かうことにします。小さなコブを幾つか超え、ひと登りした小さな頂が小蓮華山です。ガスを巻き上げる山頂には山岳信仰の名残か、赤錆びた鉄劍が立っていました。
小蓮華山からは白馬大池を目指し尾根道を下って行きます。相変わらずガスを巻き上げる稜線からは視界は全く利きません。登山道の両側に咲く花がせめてもの楽しみです。小さなコブを幾つか超えたところが船越ノ頭。高度が低くなったのか、ガスの間より北側の視界が開け始め、これから下る白馬大池が青い水をたたえていました。左手には雲に隠れた雪倉岳や朝日岳。巻き上げるガスの中には、かすんだ日本海が青く輝いています。
たどり着いた白馬大池からは白馬乗鞍岳に向かい登りはじめます。登山道はゴツゴツした溶岩の上をたどる歩きにくい道です。たどり着いた乗鞍岳の山頂はどこが山頂か分からない広い平坦なところで、コンクリート造りのケルンが建っていました。
白馬乗鞍岳からは岩のゴツゴツした急斜面を下り天狗原へ。たどり着いた天狗原はやや乾燥の進んだ湿地帯です。花の時期にはアヤメなどが咲いているようですが、すでに花の時期は終わっています。
天狗原からは、栂池自然園へと急な下り坂を下って行きます。しばらく下ると両側の木々もダケカンバなどの潅木に代わり、キャンプ場、山荘などが建ち並ぶ栂池自然園にたどり着きました。帰りのバスにはまだ時間があるようです。目の前に広がる浮島湿原を散策してくることとします。この小さな湿原にもたくさんの花が咲いています。しかし今年は半月ほど花の時期が早いかったようで、すでに花の盛りを過ぎているようです。
白馬雪渓の終端に位置する白馬尻は高茎草原のお花畑が広がっています。登山道の両脇にはミソガワソウやホソバトリカブトが咲き乱れていました。
葱平付近からは高山植物のお花畑が始まります。ホソバトリカブトやハクサンフウロ、ヨツバシオガマが咲き乱れていました。カワラナデシコの高山種であるタカネナデシコは、そろそろ花の終わりに近付いているようです。右手の沢にはオタカラコウの黄色い花。コバイケイソウはすでに花の時期を過ぎていました。
小雪渓付近にもお花畑が広がっています。チングルマはすでに白髪のような白い実を付け、ミヤマタイコンソウ、シナノキンバイもすでに花の盛りを過ぎていました。白いシロウマオウギもすでに豆のような実を付け始めたものもあります。今年は夏の暑さが早かったのか、花の時期も半月ほど早いようです。途中で出会った山岳パトロールの若い人に聞いた話では、このお花畑には白馬岳特産種のシロウマオウギやシロウマアサツキなど・・・白馬の名を冠に付けたものも多いと言います。
白馬岳の山頂にもお花畑が広がっています。すでに花の時期を過ぎているためか見つけることはできませんでしたが、この山頂にはコマクサ、クロマメノキ、ウルップソウが群生しているようです。岩陰にはウサギグサやミヤマアズマギクが咲いていました。
小蓮華山から白馬大池に下って行く稜線も高山植物が多いところです。岩陰にはイブキジャコウソウやカワラナデシコなどが咲いています。チングルマは白い穂綿を風に揺らせていました。
たどり着いた栂池湿原もたくさんの花であふれています。最初のの湿原は水芭蕉湿原。その名のとおりミズバショウの大きな葉がやたらと目立つ湿原です。ホゾバトリカブト、オニシオガマが咲いていました。次のワタスゲ湿原にはワタスゲの枯れた穂がわずかに残っていました。小さな池塘にはモウセンゴケが小さな群落を作っています。楠川を渡りしばらく登ったところが浮島湿原。中央の小さな池塘には浮き島があります。この湿原にはイワショウブが目立つだけで、ニッコウキスゲはすでに固い実を付けていました。