日本百名山のひとつに数えられる甲斐駒ヶ岳は、白い花崗岩に覆われた気品のある山です。標高は3,000メートルに満たないものの、中央線の車窓から眺める姿は、左に切り立った摩利支天、右手にはギザギザとした鋸尾根を従え、天に向かってそびえ立っています。
登山道は北沢峠、または仙水峠から登っていくコースのほか、古くから利用されている黒戸尾根を登るコースが開かれています。黒戸尾根はハシゴやくさり場の連続する長いコースで、途中の七丈小屋に一泊するのが一般的とか。昨日登った仙丈ヶ岳手に引き続き、今日は仙水峠から駒津峰に登り、甲斐駒ヶ岳の山頂を目指すことにします。
朝のうち立ち込めていた霧も出かける頃にはすっかり晴れ上がり、今日も良い天気が期待できそうです。5時過ぎ長衛荘から北沢へ。北沢には古びた北沢長衛小屋が建っています。付近一帯はキャンプサイトに指定されているようで、カラフルなテントが張られていました。登山道は北沢沿いの雑木林の中を緩やかに登って行きます。しばらく沢沿いの道を登って行くと、ほどなく仙水小屋です。
仙水小屋から北沢に沿った登山道を登って行くと、大きな岩がゴロゴロと重なるガレ場。溶岩のような黒い岩の間をしばらく登ると仙水峠です。ここからは目の前に摩利支天の岩峰。その上には甲斐駒ヶ岳の岩峰を仰ぎ見ることができます。一面に広がる雲海の上には小さく頭を持ち上げた金峰山。右手には山頂にオベリスクを載せた地蔵岳がそびえていました。
仙水峠からは駒津峰へと登る急坂が始まります。小休止を繰り返しながら急な坂道を登っていきます。振り返るとなだらかなアサヨ峰。その奥には雲を巻き上げる地蔵岳のオベリスク。さらに右手には北岳の大きな山頂がそびえていました。
やがて喧騒が近づいてくると目指す駒津峰です。明るい山頂にはたくさんの人が休憩していました。目の前には真白い花崗岩の山肌に緑のハイマツが彩りを与える甲斐駒ヶ岳がそびえています。振り返ると大きな北岳。その向こうに重畳と広がる峰々は農鳥岳、塩見岳など南アルプス最深部の山々。思わすカメラのファインダーをのぞき込んでしまう眺めです。
駒津峰からの展望を楽しんだ後、甲斐駒ヶ岳の山頂を目指すことにします。とりあえずリュックサックはこの山頂にディポすることとして、水筒だけの軽装で山頂を目指しました。登山道はひとまず六方石という鞍部に向かい大きな岩の間を下って行きます。たどり着いた鞍部からは摩利支天に向かう巻き道を右に分け、急峻な稜線を真っ直ぐに登って行きます。やがて登山道は大きな花崗岩の岩隗の間をよじ登る岩場の道となります。鎖か固定ロープなどがほしくなりそうな所もあります。急な登りに息を切らせながら一歩また一歩と山頂を目指して行くと、広く開けた甲斐駒ヶ岳の山頂にたどり着きました。
石造りの祠の建つ山頂からは期待を裏切らない広い展望が待っていました。甲府方面は相変わらず雲海に覆われているものの、右手には鳳凰三山と雲海から頭を持ち上げる富士山。さらにその右手には北岳を始めとする南アルプス核心部の峰々。遠く連なる峰々は塩見岳、悪沢岳、光岳など、南アルプス南部の山々です。更にその右手には藪沢カールを抱いた仙丈ヶ岳の大きな山頂。明るく光る戸台川を挟んでゴツゴツとした稜線を持つ鋸尾根が続いています。まさに見飽きない眺めということができる眺望です。
山頂での展望を楽しんだ後、摩利支天のそばをたどる巻き道を下って行きます。この登山道は花崗岩が風化した白砂が道を覆い、緑のハイマツに良く映えています。たどり着いた六方石からは、大きな岩の間を駒津峰を目指し登り返します。
駒津峰でディポしておいたリュックサックを背負い北沢峠を目指すことにします。駒津峰から明るいハイマツの尾根道を下った登山道は、双児山を目指して登り返すこととなります。高低差は100メートルほどですが、疲れた足は思うようにあがってくれません。思わず道端で小休止です。
小休止の後、雑木林の中をひとあえぎすると双児山の山頂。ここから登山道はコメツガの林の中を下る道となります。やがて若者の騒ぐ声が近づいてくると北沢峠です。すでにたくさんの人がバスを待っていました。広河原行きのバスの出発には若干時間があるようです。ひとまず長衛荘に入り冷たい缶ビールで喉を潤すことにしました。