鳳凰三山は地蔵岳、観音岳、薬師岳など2,700メートルを越える峰々の総称です。甲斐駒ヶ岳の南側に位置し、長く連なる稜線は白砂とハイマツの緑に覆われた日本庭園さながらの景観を誇っています。また野呂川を隔てた北岳を始めとして、甲斐駒ヶ岳や八ヶ岳、富士山の展望台としても有名な山です。登山道は夜叉神峠から登るもの、青木鉱泉からドンドコ沢を登るものなどが利用されているようです。今回はガイドブックに紹介されていた御座石鉱泉から地蔵岳に登り鳳凰小屋で一泊した後、夜叉神峠に下るコースを歩いてみました。
新宿駅から上諏訪行きの普通列車で鳳凰三山の登山口のある穴山駅へ。途中、時間調整のため甲府で停車をした列車は夜のまだ明けやらぬ穴山の駅に到着しました。しばらく待つと御座石鉱泉のライトバンのようなマイクロバスが迎えに来てくれます。マイクロバスは釜無川を渡り、小武川沿いの林道を登って行きます。バスの運転手は御座石鉱泉の従業員のようで、色々と山の話をしてくれます。やはり鳳凰三山も夏山よりは、秋の紅葉の時期が良いと言います。
(13日)
御座石鉱泉-0:45→ 西ノ平 -1:55→燕頭山 -1:30→ 鳳凰小屋 -1:00→ 地蔵岳 -0:35→ アカヌケ沢ノ頭 -0:40→ 鳳凰小屋(宿泊)
(14日)
鳳凰小屋 -1:20→ 観音岳 -0:25→ 薬師岳 -0:15→ 砂払岳 -0:35→ 南御室小屋 -0:25→ 苺平 -1:00→ 杖立峠 -0:40→ 夜叉神峠 -0:35→ 夜叉神峠入口
登山口は御座石鉱泉の脇にあります。ここから雑木林の中を登る急な坂道が始まります。木の根が露出した登山道をジグザグに高度を上げて行くと、夏山を彩る花々が眼を楽しませてくれます。小さなコブを越えたところが北精進ノ滝への道を分ける西ノ平です。
西ノ平からは再び雑木林の中をたどる急な登山道を登って行きます。ここから旭岳にかけての登りが、このコースの中で一番辛い登りのようです。やがて右手が開けてきますが、霧が立ちこめ展望は全く利きません。
岩の多い急坂を登った小さな頂が旭岳。山頂には猿田彦大神の小さな石碑が建っていました。山頂を越えると左手が大きく崩れ落ちたガレ場。登山道の両脇にはたくさんの夏の花が咲き乱れています。やがて登りも緩やかになってくるとサルオカゼが綿のように絡まる針葉樹林帯の中をたどるようになります。さらにしばらく登ると広いササ原の燕頭山の山頂にたどり着きました。
燕頭山からも針葉樹林帯の中の登りに汗を流すことにします。ここからは比較的登りも緩やかになってきますが、倒木が道に横たわり以外に歩きにくい道です。やがてドンドコ沢からの登山道を合わせると目の前の視界が開け、今日の宿泊地である鳳凰小屋にたどり着きました。
鳳凰小屋は2階建ての山小屋で、小屋の前には地蔵岳を展望するテラスとベンチがおいてあります。ここでコッヘルを出し昼食としました。
鳳凰小屋のテラスでしばらく休んでいると霧も晴れ上がり、正面に地蔵岳の切り立った岩壁が顔をのぞかせてくれます。時間もまだ1時を少し回ったばかりです。ザックを一つ小屋に置き地蔵岳まで登ってくることにします。
地蔵岳への登山道は暗い針葉樹林帯の中をたどる急な登りで始まります。しばらく登ると高茎草原のお花畑をたどる道となります。右手には地蔵岳のシンボルであるオベリスクが天に向かってそびえ立っています。赤土の露出した急登に息を切らせながら登りつめた鞍部には小さな石の地蔵が祭られていました。そびえ立つ地蔵岳のオベリスクは途中までは登って行くこともできそうですが、無理をしないほうが賢明のようです。
地蔵岳の鞍部からは賽ノ河原に戻ことにします。ここにもたくさんの石の地蔵が祭られていまた。賽ノ河原を後に、ハイマツとダケカンバの尾根をアカヌケ沢ノ頭へと登って行きます。登りつめたアカヌケ沢ノ頭からは、雲の間から甲斐駒ヶ岳がそのピラミダルな姿を見せてくれました。しかしそれも束の間、沸き上がる夏雲の中にその姿を隠してしまいました。
山頂で休憩の後、鳳凰小屋へと戻ることとします。山の夕食は5時半から。メニューはカレーライスとザーサイです。山の上で贅沢は言えないでしょうが昔風のカレーライスは味も今ひとつ、それでもお変わりをしてしまいました。食事の後、山麓から沸き上がる雲があたりを包みはじめ、大粒の雨が降り始めてきました。この数日は夜になると雨が降っているようです。
山小屋の朝食は早いものです。今日のメニューは御飯に生タマゴ、焼ノリと山菜の漬物。北アルプスに比べると食料の荷揚げをボッカに頼っているのか、南アルプスの山小屋の食事はあまり期待できないようです。体力的に余裕があるのなら、食糧を持参し素泊まりとした方が賢明かも知れません。
食事も早々に今日の長い縦走コースに出発することにします。小屋前を流れるドンドコ沢を渡り、左手の山腹から針葉樹の中を登り始めます。急な登りに息を切らせると、広く開けた観音岳直下の鞍部にたどり着きます。正面には雲を巻いた北岳がその大きな姿を青空に突き上げていました。
山頂直下で一息を入れた後、左手の岩尾根を登って行くと観音岳山頂です。目の前には昨日登った地蔵岳。左手には北岳、間ノ岳、農鳥岳と続く白峰三山が雲の間よりその山頂をのぞかせています。しかし、山肌を駆け登る雲にすぐその姿を隠してしまいました。残念ながら富士山はその姿を見せてくれません。
山頂で展望を楽しんだ後、広い稜線の上に続く尾根道を薬師岳へと向かうことにします。たどり着いた薬師岳の山頂は広い平坦な山頂です。白い巨石が幾つか立っています。山頂を下っ潅木林の中には、ひっそりと薬師小屋が建っていました。薬師小屋から巨岩の間を登り返した小さな岩峰が砂払岳です。
砂払岳からは岩稜地帯を離れ針葉樹の中を下り始めます。登山道は昨夜の雨で若干湿っているものの、それほど滑らないようです。途中道端には大きなカマノ石。ここからは右手の視界が開けているようですが、舞い上がる霧で展望は全く望めません。しばらく単調な登山道を下った草原に建っているのが南御室小屋です。まだ10時前、少し早いようですが小屋前のベンチに腰を下ろし昼食としました。
南御室小屋からは、苺平に向かい暗い針葉樹の中を下って行きます。夜叉神峠側から大きなザックを背負ったパーティがたくさん登ってきます。御座石鉱泉に比べ登りが緩やかなのか、逆コースを縦走するパーティは以外と多いようです。緩やかな登りにひと汗をかいたところが苺平。暗い樹林の中に小さな指道標が建っています。ここから左手に分かれる道は大馴鹿峠を経て千頭星山、甘利山へと向かう道と言います。
苺平からは杖立峠に向かい緩やかに下り始めます。しばらく下ると山火事跡という高茎草原です。晴れている日には前方に富士山、右手に白峰三山が見渡されるところと言いますが、相変わらず舞い上がる雲の中で展望は期待できません。暗い針葉樹林の中を小さく登り返したところが小さな指道標が建つ杖立峠です。
杖立峠からは、雑木林の中の急な下りをしばらく下ると、ササ原の広く開けた夜叉神峠です。夜叉神小屋の前のベンチで最後の小休止としました。晴れた日には白峰三山の好展望台といわれている夜叉神峠ですが、今日はわずかにその裾野を見せてくれるだけです。
ここからはバス停のある夜叉神峠の入口に向かい下ることとします。緩やかな下りは道幅も広くよく整備された道です。夜叉神峠までのハイキングでしょうか、ザックも持たない軽装の人も目立つようになります。しばらく暗い樹林帯の中を下って行くと夜叉神峠入り口のバス停です。
南アルプスの山上の庭園には、思いのほか、たくさんの夏山を彩る花々が我々を迎えてくれました。
御座石鉱泉から旭岳に向かって登っていく登山道には夏山を彩る花々が今を盛りに咲いています。赤橙色の鮮やかな花を付けているフシグロセンノウ、青紫色の花はソバナでしょうか。白に淡褐色の萼を付けた美しい花はレンゲショウマです。日本特産種という大きな花はさすがに美しい花です。
旭岳から続く稜線も花に彩られた稜線です。ホタルブクロ、ヤマハハコなどお馴染みの花のほか、小さなコバノコゴメグサが咲いています。コゴメグサには幾つかの種類があるようですが見分けが難しい花のひとつです。しばらく登った暗い樹林帯の中には、あまり花付きの良くないセリバシオガマ。カニコウモリも彼方此方に咲いていました。
鳳凰小屋の前にはたくさんの高山植物が咲いています。お馴染みのホタルブクロやイワオトギリのほか、ピンクの大きな花を付けたタカネビランジ。この花は南アルプスの特産種と言います。紫色の釣り鐘状の花はタカネシャジンのようです。テラス下の沢にはトリカブトが今を盛りに咲いていました。
地蔵岳からアカヌケ沢ノ頭に向かう急な斜面にはゴゼンタチバナやミヤマホツツジ、タカネグンナイフウロウが咲いていました。
観音岳の岩に覆われた稜線には淡黄色の花を付けたトウヤクリンドウが咲いていました。お馴染みのミネウスユキソウも咲いています。
山頂にかけて広がる高茎草原には、見慣れたリカブト。濃い紫色が鮮やかなタカネグンナイフウロウもさいていました。苺平から下って行った山火事後という草原にはヤナギランやクガイソウ、オダマキが今を盛りと咲いています。オヤマリンドウは少し時期が早いのかまだ紫色の壷を固く閉ざしています。
夜叉神峠のお花畑にはヤナギランに混じり秋の花であるマツムシソウが咲き始め、山はそろそろ秋の気配が近づいているようです。