南アルプスの北部にそびえる仙丈ヶ岳。深田久弥氏の日本百名山のひとつに数えられる山は、シナノナデシコやイワギキョウ、シコタンソウの咲く山として花の百名山にも紹介されています。女性的ななだらかな形をしていますが、その山頂には南アルプスにはめずらしい大きなカールを持っています。また高山植物の宝庫としても知られた山です。
広河原から北沢峠までは一般車両通行禁止区間です。9時過ぎ、広河原からたくさんの登山客を乗せた芦安村のマイクロバスは北沢峠に向かいます。土煙を上げながら南アルプス林道を登って行くと野呂川出会。左手の道は両股小屋に向かう道です。さらにシラビソの林の中を緩やかに登って行くと仙丈ヶ岳の登山口である北沢峠にたどり着きました。
登山道の入り口は暗いコメツガの林の中。最初から急な登りが待っています。標高は2,000メートルを越えていますが天気は晴れ。真夏の強い日がサンサンと降り注いでいます。
暗い林の中の急坂に汗を流すと大滝ノ頭です。右手に分かれる道は馬ノ背ヒュッテを経て山頂へと向かう道。我々は小仙丈ヶ岳を経て山頂へと向かうことにします。
大滝ノ頭からしばらく登ると、登山道はナナカマドやダケカンバの明るい潅木帯となります。視界が大きく開け、正面にはこれから登る小仙丈ヶ岳の丸い山頂。左手には大きな北岳。振り返ると逆巻く雲の中から、甲斐駒ヶ岳の三角形の山頂がその姿を見せてくれます。さすが南アルプスの最深部。山の深さも大きさも一味違うようです。小休止を繰り返しながら急な登りに汗を流すと、広い小仙丈ヶ岳の山頂にたどり着きました。目の前にはこれから登る仙丈ヶ岳の丸やかな山頂。左手には氷河の名残という小仙丈沢カールが大きな口を開けていました。この展望を楽しみながら昼食としました。
昼食の後、再び稜線上の登りに汗を流すこととしました。息を切らせながら小さなコブを幾つか越えると、右手に仙丈小屋へと下る道。大きく切れ落ちる藪沢カールを巻くように稜線を登って行くと、仙丈ヶ岳の山頂です。ここからは360度の広い展望が開けています。仙丈ヶ岳から尾根通しに続く頂は大仙丈岳。ここから続く仙塩尾根をたどると間ノ岳まで縦走することができると言います。目の前には日本第2の高峰である北岳が、いやが上にも大きな山頂を誇るようにそびえ立っていました。
山頂で展望を楽しんだ後、藪沢カールに下って行くことにしました。藪沢カールには崩れかけや仙丈小屋が建っています。付近はキャンプの指定地となっているようでカラフルなテントが2つ。ここまでテントを持ってくるのは大変でしょう。
藪沢カールから石の多い登山道を下っていくと草原状の広場。ここは遅くまで雪が残っていたところのようで、ツガザクラやチングルマなどが咲くお花畑になっています。草原の中にはクロユリの俯きかけた茶色の花が咲いていました。
ここから道はナナカマドやダケカンバの潅木林になってきます。しばらく下るとコメツガの林の中にログハウス風の馬ノ背ヒュッテ。ここに宿泊する登山客も多いようで、たくさんの人が小屋の前のテラスで雑談していました。
馬ノ背ヒュッテから登山道は藪沢へと下って行きます。冷たい沢の水で喉を潤した後、小仙丈ヶ岳の山腹を巻くようにして大滝ノ頭の分岐点を目指します。途中には人気の無い藪沢小屋や沢登りの対象となりそうな滝などがあります。たどり着いた大滝ノ頭の分岐点で小休止としました。
小休止の後、コメツガの暗い林の中を下って行きます。ここからは今朝あえぎながら登ってきた急な坂道を北沢峠へ。大滝ノ頭からは1時間ほどの下りです。
長衛荘にたどり着いたときはすでに6時半。さっそく缶ビールで喉を潤しながら夕食としました。やはり車が入る山小屋はそこそこの食事を作ってくれるものです。ボッカに頼る山小屋では、贅沢に慣れた口には寂しい夕食となるのは致し方ないものですが、山小屋の食事がカレーラースだった頃に比べればかなりの美味しい夕食です。
小仙丈ヶ岳に向かう砂礫に覆われた登山道には、夏の山を彩る高山植物が咲いていました。白い小さな花を付けたイワツメクサ。ピンクの花はヨツバシオガマ。トウヤクリンドウは少し花が小振りようです。何処の山でも見かけるミヤマキンポウゲも黄色い花を付けていました。
藪沢カールの砂礫の道にはミヤマキンポウゲやヨツバシオガマなどが咲いています。チングルマはそろそろ綿のような穂を風に揺らせていました。ここから少し下ったカールの渕は草原状のお花畑になっています。付近は数週間前まで残雪が残っていたようで、雪解けとともに咲くツガザクラが白い花を付けています。こげ茶色の花を付けたクロユリも今が満開です。
馬ノ背ヒュッテ前の斜面には朱色のコオニユリや黄色いオタカラコウが咲いていました。黄色い大ぶりな花も、斜面を染めるように群生するとなかなか絵になりそうなものです。