札幌の近郊にありながら深い森林と沼をその山懐に抱えた空沼岳。なだらかな稜線をたどるハイキングコースは、歩行時間の長さにもかかわらず小学校の登山遠足やファミリー登山のコースとしてガイドブックに紹介されている山です。
途中の万計沼には北大山岳部が管理する空沼小屋と、一度泊まったことのある万計山荘があります。今はボランティアの管理となっている万計山荘は老朽化が進み、この夏完成を目指し改装の最中と言います。
万計沢川の鉄製の橋を渡ると暗い針葉樹の林の中を登る登山道が始まります。なだらかな登山道は前夜の雨で湿っているものの比較的歩き易い道です。時折現れる小さな沢や沼が登山道の単調さを紛らわしてくれます。太いエゾ松には夫婦松や他人松などの名が付けられていました。夫婦松は良くある名前ですが、他人松とはあまり記憶に無い名前です。
やがて右手に沢が近づいてくると小さな丸木橋で万計沢を渡ります。ここから登山道は沢を離れ、雑木林の中を万計沼へ登って行きます。道端には大きな葉を広げたミズバショウ。春先には可憐な花を付けるこの花も、初夏が近づくとお世辞にも可憐とは言いがたいものです。やがて右手の林の中にひっそりとした青沼への道。人気のない沼は木々の緑を水面に映し静まり返っていました。
緩やかに登山道を登って行くと万計沼です。小屋の前の広場では大きな鉄板でジンギスカンを楽しむグループや、先生に引率された登山遠足の生徒などで賑わっていました。
万計沼から小尾根に向かって登って行くと広く開けた真簾沼にたどり着きます。ゴロゴロとした岩だらけの岸辺に腰を下ろし今日最初の小休止です。
真簾沼からは沢状の急斜面を稜線に向かって登って行きます。左手の沢にはまだ白い残雪が残り、雪解け直後に花を付けるサンカヨウが咲き乱れていました。たどり着いた稜線から一度小さな鞍部に下ると、後は山頂に向かっての急坂が始まります。やがて右手に札幌岳への縦走路を分けると山頂直下の稜線です。ハイ松の間の急坂をひと登りすると、たくさんの人で賑わう空沼岳の山頂にたどり着きました。
山頂からの展望はなかなかすばらしいものがあります。正面には真っ青に晴れ渡った空の下にそびえる後志羊蹄山。その左手はルスツスキー場のある尻別岳です。右手手前の小高い頂きは空沼岳からの縦走路が続く札幌岳。その奥にはまだ白い雪を被った無意根山がそびえています。目の前の丸い頂きは漁岳です。この山には登山道が整備されていないため、雪がしまり始めた春先の一時期、スキーを履いた山行でのみその山頂に立てると言います。さらにその左手には支笏湖と岩峰を頭に乗せた恵庭岳。その奥には風不死岳や樽前山を望むことが出来きます。まさに時が経つのも忘れそうな眺めです。
山頂で昼食の後、往路をたどり登山口に戻ることにします。長い登山道も下りとなれば足も軽やかです。途中、万計沼のほとりで一休みした後、車を停めた登山口まで戻りました。
札幌の周辺にありながら、空沼岳は花の多い山です。1,200メートルを超えてはいても何れは低山。亜高山帯の花が主体ですがそれでもおなじみの春の花々が咲き乱れています。なかでも多いのがツバメオモトとサンカヨウ、それの茶色のエンレイソウと白いミヤマエンレイソウです。マイズルソウは何処にでもある花ですが、白い花が群生する様は鶴が羽を広げたという表現そのものです。