無意根山には思い出があります。25歳か26歳のころでしょうか、会社の仲間10数名とこの山に登ったことがあります。時期はまだ春早い5月の末か6月の初め頃。薄別の登山口から山頂を目指しました。山麓ではもう初夏の声を聞く時期でしたが、無意根尻小屋を過ぎる頃からは本格的な春山。通称北壁といわれる急な登りには、硬くしまった雪が張り付いていました。メンバーの一人が足を滑らせ雪の斜面を滑落。事故にならなかったものの、冷や汗をかいた記憶が残っています。
登山道は薄別から登るコースのほか、今回利用する豊羽鉱山から山頂を目指すコースが開かれています。千尺高地のなだらかな尾根道を登っていくコースで、冬はツアースキなどで訪れる人も多いと言います。
無意根山荘の駐車場に車を停め、明るい広葉樹林の中に続く登山道を登り始めます。最初からかなりの急坂です。しばらくすると登山道はダケカンバの林の中をたどる心地よい登りになります。木の幹にはスキーツアーのためでしょうか、番号を書いた標識が取り付けられていました。振り返ると木々の間より定山渓天狗の岩峰を望むことができます。やがて登山道は千尺高地へと向かう尾根へと差し掛かりました。もう夏とは違い気温や湿度も高くないようで、汗もそれほど噴き出してきません。
たどり着いた千尺高地は明るく開けた熊笹の台地で、正面にはこれから登る無意根山の山頂。振り返ると余市岳や朝里岳を眺めることができます。ここから台地の中をしばらく進むと切り株の腰掛けが置かれた休憩広場があります。登山口からはそろそろ1時間半。この切り株に腰を下ろし遅い朝食です。
小休止の後、緩やかな登山道を稜線へと登って行きます。傾斜はきつくないものの、雨に大きく削られた登山道はなかなか歩きにくいものです。やがて登山道は痩せた小尾根の上を進むようになりました。左手には広く開けた大蛇ヶ原。その中に無意根尻小屋の赤い屋根が見えています。
さらに登山道を進んで行くと、薄別から登ってくる道を合わせ山頂直下の稜線をたどる道となります。急な坂道をひと登りすると、登山道はハイマツ帯の中をたどる緩やかな道になりました。ここはもう山頂から続く稜線の上で、春先には大きな雪庇に覆われるところ。左手のハイマツの中には小さな祠と山頂の三角点が建っていました。さらにしばらく進むとケルンが置かれた旧山頂です。
ここからの展望は、札幌周辺第2の標高を誇る山だけあって、なかなか素晴らしいものがあります。緩やかに続く稜線の先には雲に頭を隠した後志羊蹄山。左手の大きな山並みは札幌岳。それほど特徴のある山と思っていなかった札幌岳も、ここから眺める姿はなかなか立派なものです。振り返るとたおやかな稜線を持つ余市岳とそれから連なる朝里岳。広い山頂に腰を下ろしおにぎりの昼食としました。
山頂での昼食ののち、往路をたどり登山口へ。車での山行とは言いながら、登りの道と下りの道が同じでは少し味気のないものです。途中、千尺高地の休憩広場で一休みしたのち登山口へ。無意根山荘にたどり着いたときはまだ2時を過ぎたばかりでした。
秋が早いという北海道でも、9月上旬はまだまだ秋の便りも先のこと。それでも稜線のナナカマドには僅かに色付いているものもありました。
薄別からの登山道を合わせる明るい稜線には、エゾオヤマリンドウが青紫の花を付けています。しばらくするとこの稜線も秋の色に染まるようです。