安倍奥の山々の中で八紘嶺に次いで1700メートルの標高をもつ十枚山。昨年、奥山温泉から篠井山に登った時、登山道の先にそびえたつ大きな山容を眺めた記憶が残っていますが、今回は関の沢集落の中ノ段から山頂を目指すことにします。
十枚という変わった山名、枚とは滝の数え方で、十枚とはこの山にたくさんの滝がかかることから命名された紹介しているものがあります。また十枚山には瀬戸川層群や十枚山構造線あることから、十枚山の岩石が崩れやすく剥離しやすいと言います。この剥離しやすく薄片状になることからから名付けられたと紹介しているものもあります。何れにしても滝の多い急峻な山と言うことができそうです。
安倍川に沿った県道を登っていくと梅ヶ島。ここから狭い道を関の沢集落へと登って行きます。しばらく登ると5台ほどが駐車できる駐車場があります。ここから狭いお茶畑の中の道を登っていくと道端に数台の駐車スペースがありました。すでに2台ほどの車が停まっていますが、狭い農道ではUターンも難しく、下の駐車場に車を置いたほうが賢明だったようです。
登山口と書かれた案内板から道を左に折れると登山道が始まります。緩やかに登って行く道がやがて暗い杉の林の中を登って行くようになります。
しばらく暗い杉林の中を登っていくと直登コースとの分岐点がありました。ここで道を右に、十枚峠を目指し沢沿いの道を登って行きます。最初に現れたのが一ノ沢です。ネコノメソウなどの春の花も咲いている沢です。沢のから登り返す斜面は少し荒れ、固定ロープが張られたいました。
小さな枯れた沢で一休みをしたのち二ノ沢を超えます。登山道は暗い杉の木立の中のジグザグを繰り返しながら高度を上げていきます。木々の切れ間より下十枚山の頂が見え隠れしますがなかなか近づいてはくれそうにありません。
十枚山と十枚峠付近からの沢が出会うところが三ノ沢。ここから小尾根の登りに汗を流すと広く開けた十枚峠にたどり着きました。左手は十枚山へ、右手は下十枚山に向かう道です。正面には月夜ノ段からの登山道が登ってきます。このコースを紹介しているガイドブックは少ないようですが、比較的楽ということで利用する人も多いようです。
十枚峠からは目の前にそびえる下十枚山を目指し、露岩の目立つ急坂を登って行きます。目を道端に落とすと白いバイカオウレンが咲いていました。ミツバオウレンはよく目にしますが、5枚の葉を持つバイカオウレンはあまり見かけたことがありません。
広く開けた山頂の肩からは視界が開け、十枚山の上に白い雪をかぶった南アルプスを一望することができます。下十枚山の山頂は南北に長い稜線の先にありました。三角点と標柱の立つ頂は天津山とも呼ばれているようで、中学校の登山遠足で設置されたと思われる山頂の案内板が置かれていました。
木立に覆われた山頂は東側の木立が切り開かれ、真っ青な青空に白い雪をかぶった富士山が浮かんでいました。
十枚峠からは明るい雑木林の中を登り返す道が始まります。木立に覆われているものの、右手は切れ落ちているところもあり、木の間から富士山が見え隠れしているようです。やがて木立が切れると最後の急な登りです。振り返ると下十枚山の頂が大きくそびえ立っていました。
たどり着いた十枚山の山頂は広く開けたところで、正面には十枚山から続く安倍奥の山並、左手には青空に浮かぶ富士山。振り返る南アルプスは午後の日に白く霞んでいました。
十枚山の山頂で遅い昼食をしたのち、中ノ段に下ることにします。直登ルートと呼ばれるだけあって固定ロープが張られた急な下りが続いています。
ロープを頼りに転げ落ちるように急坂を下っていくと、登山道は暗い杉林の中をジグザグに下って行くようになります。そろそろ下りにも飽き始めるころ、直登コースの分岐にたどり着きました。ここから車を停めた中ノ段まではわずかな下りを残すだけです。
中ノ段近くには、道端にヨモギが顔を出していました。ヨモギを摘んでいると地元のお婆さんがヨモギの茹で方などについて親切に話してくれます。話のなかには「ヨモギのぼた餅は静岡の町の衆が喜んでくれる・・・。茹でる時はアクを抜かないほうが香りが逃げないなどなど・・・」。安倍奥は田舎という雰囲気が話の端々に感じられるものです。
山が低いためか十枚山には目立った花を見つけることができません。それでも沢沿いにはネコノメソウやヒメレンゲなどの花を見つけることができます。
下十枚山への登りでは白いオウレンが群生していました。ミツバオウレンはよく見かけますが、5枚の葉を持つバイカオウレンの群生はあまり見たことがありません。