ガとは読めてもヒルとはなかなか読めない蛾ヶ岳。その名前の所以を調べると甲府にある武田信玄の館から見て、正午になるとこの山の真上に太陽が上がったので昼ヶ岳と呼ばれていたようです。何時の時期からか昼に蛾の字を当ててヒルと呼ぶようになったと伝えられているようです。
漢和辞典を引くと蛾を火取虫、火虫と言っていたと言いますが、ヒルとは読みにくいものです。ちなみに丹沢の最高峰も文字は違うが蛭ヶ岳。こちらの蛭は吸血動物の蛭です。名前の所以はヒルと言われる猟師の被り物に山の形が似ていたことから名付けられたとか。地名、山名の謂れを尋ねることもなかなか面白いものです。
四尾連湖の駐車場に車を停め、落葉松の林の中を緩やかに登り始めます。まだ芽吹きも始まらない唐松林の中からはこれから登る蛾ヶ岳の稜線、振り返ると四尾連湖の青い湖面が冬枯れの山肌に光っています。しばらくジグザグを繰り返すと大畠山の東の肩にたどり着きました。付近はヒノキの植林に覆われ視界はまったく望めません。
ここからは明るい稜線をたどり蛾ヶ岳を目指すことにします。ミズナラやブナなどの雑木林に覆われた登山道は、緩やかに小高山の山腹を巻くように続いています。道端には数日前に積った雪が残っているところもあります。この付近はまだ冬の名残が残っているようです。
蛾ヶ岳の南斜面をジグザグに登っていくとほどなく西の肩にたどり着きました。芝草へと下っていく道を右に分け、急な坂道に息を切らせると蛾ヶ岳の山頂です。三等三角点の建つ山頂には小さな祠が祭られ、壊れかけたベンチが置かれていました。
山頂からの展望は標高1,300メートルに満たない低山としてはなかなか素晴らしいものがあります。正面には扇を広げたような櫛形山。その上には白い雪に覆われた北岳から間ノ岳、農鳥岳の稜線。この山域はまだ冬の世界に包まれています。その右手に連なる地蔵岳から薬師岳はもう雪が解け、北岳とは対照的に黒い山肌を見せていました。さらに右手に目を移すと、ニセヤツや瑞牆山から金峰山の稜線。まさに甲斐の山並みを一望する大パノラマが広がっています。
展望を楽しんだ後、往路をたどり四尾連湖に戻ることにします。途中の大畠山から直接市川大門町へと下っていく道もあると言いますがマイカー登山の悲しさ。車を置いた登山口まで戻るよりほかはありません。