何度か登ったことのある旭岳。この裾野には裾合平と呼ばれる広大なお花畑や北海道の秘湯の一つに数えられる中岳温泉があります。昨年は架け替え作業のため運休していたロープウェイも今年のゴールデンウィークから運転を再開していると言います。今日は、姿見ノ池から旭岳に登り、お鉢の一角である間ノ岳をたどり、中岳温泉、裾合平を経て姿見ノ池に戻る長いコースに、夏の最後の山旅を楽しむこととしました。
旭川から道道212号旭川大雪層雲峡線をたどり旭岳温泉へ。たどり着いた旭岳のロープウェイ駅は新装されたばかりの建物で、1階にはみやげ物屋、2階はロープウェイの駅になっています。真新しいロープウェイに乗り込むと一気に姿見駅まで。ここはもう標高1,600メートルを越ています。あたりはすでに初秋の雰囲気が漂い始めていました。
姿見駅からはお花畑の中をたどる遊歩道を姿見ノ池へと登って行きます。遊歩道を彩る花々は、秋を代表するエゾオヤマリンドウやアキノキリンソウ。秋はすぐ傍までやってきているようです。
姿見ノ池を越えると、大きな地獄谷右側の稜線をたどる本格的な登山道になります。ザラザラした火山礫の斜面を、息を弾ませながら高度を上げて行きます。振り返ると良く晴れ渡った青空の下、遠くトムラウシや十勝の山々が霞んでいます。やがて目の前に金庫岩が現われると傾斜も緩やかになり、ザラザラとした砂礫の斜面をひと登りすると旭岳の山頂です。
山頂からは大きな展望が目を楽しませてくれます。目も前に大きな口を明けているのは熊ヶ岳、その向こうに広がるのはお鉢平を取り巻く山々です。左手の頂は北鎮岳と凌雲岳、その奥に頭をもたげるのは黒岳、その右手は北海岳。さらにその右手にそびえる岩だらけの頂は、白雲岳の三角形の山頂です。左手に連なる岩山は安足間岳と比布岳。大雪には珍しい急峻な岩稜を連ねる山々です。この広大な展望を楽しみながら朝食としました。
山頂で展望を楽しんだ後、お鉢の一角である間宮岳を目指すこととします。山頂からは100メートルほどの急な坂を下って行きます。赤茶けた砂礫の斜面は滑りやすく、固定ロープでも欲しいところ。思わず足にも力が入ってしまいます。下り切った一帯は裏旭キャンプ指定地で、遅くまで雪渓の残るところとか。ここからは高山植物が点在する砂礫地を熊ヶ岳の肩を目指して登り返すことになります。左手に熊ヶ岳の大きなクレータを眺めながら稜線を登ってゆくと広いお鉢の一角、間宮岳の山頂にたどり着きました。ここは昨年、黒岳からお鉢を一回りしたときに訪れたところ。山頂を示す標柱がなければ見落として見落としてしまいそうなところです。間宮岳からは道を左に。大きなお鉢平を右手に眺めながら砂礫の稜線を緩やかに下って行くと中岳分岐です。
中岳分岐でお鉢平に別れを告げ、中岳温泉を目指して稜線を下って行くことにします。右手に安足間岳、比布岳の山並み、左手には雲に頭を隠した熊ヶ岳を眺めながらゆるやかに登山道を下って行きます。やがてハイマツが現われてくると、左手に深く切れ落ちた沢が現われました。目指す中岳温泉は切り立った崖を下ったところにあります。
硫黄の匂いが鼻を突く中岳温泉は、川原に掘られた湯船に川の水を引き入れただけのもの。もちろん脱衣所などは全くない自然のままの温泉です。登山靴を脱ぎ、足を入れると、灰褐色の砂の間からブクブクと源泉が湧き出しています。あたりに人がいなければ、汗を流して行きたいところですが、目の前に数人のパーティが食事の最中。しばらくすると中年の夫婦連れが、斜面を降りてくるようです。これではゆっくりと風呂を浴びていく気にもなりません。
中岳温泉からは沢沿いの道を下って行きます。雪解けの頃にはリュウキンカが咲き乱れるという沢筋を抜けると広く開けた裾合平の一角。木道が敷き詰められた道はチングルマの群落の中を緩やかに下って行きます。今は穂綿が風に揺れているだけですが、あと数週間もすると、真っ赤な紅葉に染まることでしょう。小さな清流を幾つか渡るとやがて裾合分岐にたどり着きます。右手の道は当麻乗越から沼ノ平へ下っていく道。昨年の秋、愛山溪から登った沼ノ平はこの先に広がっているようです。ここで道を左に。山頂を雲に隠した旭岳の裾野を巻くように、姿見駅を目指して行きます。幾つか小さな沢を越えるところもあり、疲れた足にはなかなか辛い道程です。
しばらく歩くと、姿見駅のほうからスニーカーの若者や家族連れが歩いて着ました。姿見駅から軽いトレッキング気分で裾合平を目指しているようです。やがて、喧騒が近づいてくると、ロープウェイの姿見駅は目の前です。
今この山域は、秋の北国の山を彩るエゾオヤマリンドウが咲き乱れています。まだ、チングルマの紅葉には数週間がかかるようですが、その紅葉が山肌を赤く彩ると、山頂付近では初雪の便りも聞かれると言います。北海道の秋はもう目の前にやってきているようです。