大雪の山懐に位置する白雲岳は、旭岳や黒岳と異なり、直接登山口から登ることのできない山です。山麓を染める高山植物とともに、山頂直下に野球場のような広大なクレータを持つ山としても知られています。また近くには白雲岳非難小屋があり、表大雪からトムラウシへ向かう縦走路の要衝としても利用されているところです。
白雲岳への登山道には大雪高原温泉から緑岳を経由するコースと、銀泉台から赤岳を経由して山頂を目指すコースがあります。どちらも登山口から往復6時間以上の長いコースです。
今回は高山植物に恵まれた赤岳からのコースを利用することにします。層雲峡から朝霧のたなびく大雪湖の湖畔を回ると赤岳観光道路です。砂利に覆われた山道を登って行くとほどなく銀泉台にたどり着きました。そろそろ白み始めた空の下に広がる大雪の山々は武華岳や武利岳、白く棚引く雲海の中に霞む頂はここから100kmも離れた雄阿寒岳やフップシ岳でしょうか。今日の好天を約束してくれているような日の出です。
銀泉台の駐車場に車を停め、ひとまず赤岳を目指すことにします。昨日、銀泉台に宿泊したと言う夫婦連れや凾館からのパーティなどとともに、明るいダケカンバの潅木林の中を緩やかに登り始めます。しばらく登った斜面は第一花園。チングルマやヨツバシオガマ、それにウサギギクが今を盛りに咲き乱れています。ハイマツ帯の中をしばらく進むと第二花園です。緩やかな斜面には8月の中というのに雪渓が残っていました。
ここも遅くまで雪渓が残っているところで、雪渓の傍にはエゾコザクラがピンクの花を付けていました。第二花園を越えると奥ノ平です。アオノツガザクラがまだ白い花を付けていました。神ノたんぼという小さな沼を越えるとコマクサ平。すでにその最盛期は過ぎたようですが、ピンクのコマクサが朝日を浴びていました。
コマクサ平らを越えると第三雪渓の急斜面です。付近一帯は高茎草原になっているようで、ウスユキトウヒレンやウサギギクなどが群落を作っています。これを越えると赤岳山頂直下の第四雪渓です。最後の登りに汗を流すと、広く開けた砂礫の台地にたどり着きます。目指す赤岳山頂は小さな岩塊の上にありました。
時計はまだ7時。よく晴れ渡った山頂に人影はありません。山頂からは360度の展望を楽しむことが出来ます。左手にそびえる頂がこれから登る白雲岳、遠くにそびえる頂は旭岳、その右手には北鎮岳の三角形の頂きがそびえていました。
赤岳の山頂で小休止をした後、小泉岳を目指すことにします。小泉岳は赤岳から連なるなだらかな稜線上の頂で、標識でもなければ山頂とは気の付かないところです。ここで緑岳に向かう道を左に分け、なだらかな稜線をたどると白雲分岐です。ここは大雪縦走路の要衝となるところで、右手の道をたどると北海岳を経てお鉢めぐりに。左手の道は白雲避難小屋を越え、高根ヶ原、五色ヶ原へと続く道です。
ここから岩のごろごろした斜面をひと登りすると、白雲平と呼ばれる広大なクレータです。砂礫に覆われたクレータはまさに山上の野球場といったところ。クレータの縁を回り岩の折り重なる急斜面を登りつめると白雲岳の山頂です。ここからの展望は表大雪の最深部というだけあって、山また山が連なる広大な眺めが広がっています。正面には旭岳とその右手に熊ヶ岳、さらにその右手には間宮岳、北鎮岳、北海岳など、お鉢をめぐる山々が広がっています。左手遠くには雲を巻き上げるトムラウシ山。この展望を独り占めにしながら朝食としました。
白雲岳の山頂に別れを告げ、岩屑の斜面を下ることにします。白雲分岐からは道を右に折れ、白雲岳避難小屋へ。付近は大雪山屈指のお花畑というだけあって、色々な花が目を楽しませてくれるところです。エゾコザクラやアズマギクなど、少し盛りは過ぎたようですが、ピンクの花が小さな群落を作っていました。
目の前の建物が白雲岳避難小屋。ここは高根ヶ原の一角で、山上の遊歩道のような平坦な道が忠別岳、トムラウシ山へと続いています。
避難小屋の前から小沢を渡り、緑岳へ登り返すこととします。それほど急な登りではないものの疲れた足にはなかなか辛い登りです。あえぎながら登りつめた稜線をしばらく進むと緑岳の山頂です。緑岳は江戸時代の蝦夷地探検者、松浦武四郎の名にちなみ松浦岳とも言われる山です。目の前には岩のごろごろとした白雲岳、その奥には雲を巻き上げる旭岳と熊ヶ岳。ここからの展望もなかなか見事なものです。
山頂で展望を楽しんだ後、小泉岳、赤岳を経て銀泉台へと戻ることとしました。疲れた足には小泉岳への登りもなかなか辛く感じるものです。道端にはアズマギクなどが咲いていましたが、花を愛でる元気も出ないようです。
田中澄江の花の百名山にも選ばれた大雪山は白雲岳から緑岳の山域とか。付近一帯は今まさに花の真っ盛りを迎えているようです。
銀泉台から赤岳に向かう登山道も花に彩られたところです。今この斜面に咲き乱れる花はチングルマやアオノツガザクラ、エゾウサギギクなど、ピンクのエゾコザクラも咲いています。第三雪渓付近の斜面にはウスユキトウヒレンが紫色の花を付けていました。この花は夕張岳で見付けたユキバヒゴダイと似た花のようです。厚い葉と白い綿のような毛は山の厳しい環境に対応するためでしょうか。
白雲岳非難小屋の付近も高山植物の多いどころです。クモイリンドウが白い花を付けていました。南アルプスの鳳凰三山に咲いていたトウヤクリンドウと似た花ですが、白いリンドウは珍しいものです。
緑岳へ向かって登っていく砂礫地にはホソバウルップソウが群生しています。しかし花の時期は過ぎてしまったようで、枯れた花柄だけが風に揺れていました。鮮やかな水色の花を付けるというこの花も、なかなか開花の時期にはめぐり合えないものです。