広大な自然が残る大雪の山には多くの湿原が残っています。その一つが高原温泉の沼めぐりであり、もう一つが今回登る沼ノ平、さらにはトムラウシの付近には沼ノ原の湿原があります。残暑が続いた北海道も、そろそろ朝晩は冷え込みむようになり、山からは紅葉の便りが届き始める時期になっています。
滝川インターから国道12号線、国道39号線をたどり愛山渓へ。ここから砂利道の林道をおよそ20km。広い駐車場の傍に愛山渓温泉と愛山渓ヒュッテが建っていました。
駐車場脇には森林監視員が2、3人談笑していました。聞けば沼ノ平は紅葉にはまだ早いものの、紅葉のピークはこの週末頃までと言います。天気予報では九州に接近している台風がこの週末、北海道を直撃するとか。今年は山の紅葉には恵まれないのかもしれません。
登山道はダケカンバの林の中を緩やかに登って行きます。やがて右手の沢を渡ると本格的な山道が始まります。三十三曲がりと言われるこの道は、なかなか急な登りです。ジグザグを繰り返すたびに視界が開け左手には愛別岳の岩峰が顔をのぞかせています。晴れ渡った秋の空の下に広がる山肌はすでに紅葉が始まっていました。
やがて登山道は熊笹やハイマツに覆われた台地の上にたどり着きました。左手に永山岳や安足間岳を望みながらたどる登山道は水溜りや泥濘が多く、あまり歩き易い道ではありません。花の季節にはチングルマやハイオトギリなどが咲くようですが、今はわずかにエゾオヤマリンドウが紫の花を付けているだけです。
やがて左手に安足間岳へ向かう道を分け、泥濘の道をしばらく進むと八島分岐にたどり着きます。右手に進む道は松仙園へと下って行く道。さらに暫く進むと沼ノ平の湿原地帯が広がっています。尾瀬を思わせるような木道が敷かれた高層湿原には大小の池糖が点在し、草紅葉が辺りを茶色に染めています。やがて小さな五ノ沼。沼のほとりをめぐるように木道が続いていました。
ここから小さな登りをつめると六ノ沼湿原です。正面には山肌をナナカマドの紅葉に染めた当麻岳。目の前に広がる小さな沼は青空と紅葉の当麻岳を水面に映し、ここはもう秋も本番を迎えています。登山道は当麻乗越といわれる小尾根から裾合分岐、中岳温泉、中岳を経てお鉢平へと続いているようですが、これを縦走するには十分な時間と体力が必要です。今日は六ノ沼の辺で、紅葉を眺めながら昼食としました。
沼ノ平からは松仙園を回って愛山渓温泉へと戻ることにします。六ノ沼、五ノ沼から八島分岐へ。ここから道を左に折れ暫く下っていくと、小さな湿原にたどり着きます。安足間岳の影を映す小さな池糖は、真っ赤な草紅葉に覆われています。ここはもう秋も盛りのようです。
ここから暫く下ってゆくと四ノ沼湿原です。池糖が点在する湿原には、半ば白骨化したアカエゾマツが数本。まさに絵になりそうな景色です。良く整備されている沼ノ平に比べ、この湿原には木道も敷かれていません。かすかに続く足跡をたどりながら湿原の中を横切っていくことになります。足元の泥濘もさることながら、このまま多くの人に足を踏み入れられると、せっかくの自然が壊れてしまうのが気になるものです。湿原を越えるとやがて道は急な山肌を下って行くことになります。紅葉の間より眺める池糖は一ノ沼でしょうか。
下り切ると道は熊笹に覆われた急坂を登り返すことになります。背丈以上の熊笹を掻き分けながら登りつめると広く開けた台地。その先に広がる湿原は松仙園の核心部である二ノ沼湿原です。人気も少ない湿原は、尾瀬のような華やかさはないものの、大自然の中に広がる日本庭園といったところ。振り返ると愛別岳から安足間岳へと続く稜線、その右手に頭を持ち上げる頂は大雪の主峰旭岳です。
湿原を抜けると松仙園分岐です。左手の道は旭岳温泉へ続いていた道。まっすぐ進む道は米飯へ下る道と言いますが、何れも廃道になっているようです。道はダケカンバの林の中を愛山溪へと下って行きます。途中には背丈以上の熊笹が道を覆い、掻き分けながらの下りはなかなか疲れるものです。沼ノ平よりそろそろ2時間、ようやく造林で整備された道にたどり着きました。ここからさらに暫く下ると米飯林道です。道端のエゾオヤマリンドウは、葉を茶色に枯らせていました。この付近はもう初霜が訪れているようです。
林道を暫く下ると登山口である愛山溪温泉です。今日はここで汗を流していくこととします。湯船がひとつだけの温泉は鉄分が多いのか、赤茶けた色をしていました。同じ大雪の山麓でも、高原温泉は乳白色、ここ愛山溪は赤茶けた色。場所が違うと温泉の成分もだいぶ違うようです。