西上州の山域は標高の高い山はないものの、小ぶりながら鋭い岩峰を空に突き上げる山が多くあります。荒船山や妙義山などを除くと、交通の便もあまり良くないことから、ひっそりとした玄人好みの山旅を楽しめる山が多い山域です。その中にあって、笠丸山はアカヤシオの咲く山として、花のシーズンにはたくさんのハイカーでにぎわう山です。
ナビの案内に従い、関越自動車道から登山口の住居附を目指すことにします。住居附の入り口である上野村は日本航空の墜落事故で有名になったところですが、関越自動車道からはかなりの距離があります。ナビは上信越自動車道の下仁田から山越えでのルートで住居附への道を案内してくれました。確かにこのルートのほうが早くたどり着けるかもしれません。
下仁田ICから一般道に降り、南牧川に沿って緩やかに登って行く県道をしばらく走ると左手に塩之沢峠へと登って行く道。ここからは山道となり急なカーブが続いていました。塩之沢峠の小さなトンネルを超えたところで道を左に。まっすぐ降りて行く道は上野村へと下って行く道です。小さな道標は住居附へと案内していますが、ややもすると見落としてしまいそうなところです。またこの道は御荷鉾スーパー林道の一部で、スーパー林道はまだ冬季の通行止めが続いていました。急な坂道をしばらく下ると笠丸山への登山口です。登山口の手前の空き地にはすでに数台の車が停まっていました。周辺には駐車場も無く、アカヤシオのシーズンにはたくさんの車で身動きが取れなくなるところでしょう。
登山口から砂利道の車道をしばらく登ると、沢沿いの雑木林の中を緩やかに登る山道が始まります。3月までは暖かい日が続いていましたが、4月になると寒い日が続いているためか、山はまだ目覚めを迎え始めたばかりです。雑木林もまだ芽吹きが始まったばかりです。登山道は左手の沢を地蔵峠に向かって緩やかに登っていきます。たどり着いた地蔵峠はあまり車が入ったはいないようですが、細い林道が目の前を通っていました。
地蔵峠で一休みしてから雑木林の稜線を進むと、笠丸山の岩峰に向かっての急な登りが始まります。灌木に覆われた急な坂道には、固定ロープが張っているところもありますが、岩場という雰囲気はありません。急な坂道をよじ登ると北峰と南峰を結ぶ細い岩場の上。目の前は真っすぐに切れ落ちています。右手に向かうと広く開けた岩場の上です。晴れているもののは春霞の空の下、展望は期待すべくもありません。また期待していたアカヤシオも稜線に先に僅かに開き始めた蕾を見付けることが出来るだけです。
細い稜線を左に進むと、ヒノキに覆われた笠丸山の山頂です。小さな笠丸神社の社が建っていました。この傍らに腰をおろして昼食です。山頂で出会った家族連れは地元のお婆さんとその子供夫婦。80歳近くでしょうか、「民宿をやっていたがもう卒業した。泥棒以外は何でもした・・・」と言いますがかなり元気なお婆さんです。
昼食の後は、住居附に下ることにしました。ヒノキの林の中を下って行く坂道はかなり急な下りで、露岩や木の根が絡みつく歩きにくい道です。急な坂道もしばらく下ると暗い桧の林の中を下るようになり、ほどなく住居附の登山口にたどり着きました。
まだ芽吹きも始まっていない雑木林の中にも春の花が咲き始めています。道端に目を落とすとネコノメソウ。ネコノメソウにもたくさんの種類があるようで、なかなか見分けが難しい花のひとつです。また薄水色の花はヤマエンゴサク。ムラサキケマンの仲間でしょうがなかなか綺麗なものです。しばらく登った沢添いの斜面には濃い紫色の花を付けたハシリドコロが咲いていました。花が咲くと見間違えることもないでしょうが、若葉のころは山菜と見間違えるという話は納得できるものです。
期待していたアカヤシオはようやく蕾が開き始めたところのようで、山頂周辺の岩場に淡いピンクの花がチラホラ。白い花が咲くと言うヒカゲツツジは蕾さえも膨らんではいません。この山頂に春が訪れるのはしばらく先のことでしょう。
たどり着いた住居附の小さな沢にはアズマイチゲが白い花を風に揺らしていました。道端にはミヤマケマンなど春の花が咲いていました。登山口付近はまさに春本番と言ったところです。