標高1915mの茶臼岳は那須連峰の主峰です。那須連峰は三本槍岳から朝日岳、茶臼岳、南月山、黒尾谷岳へと続く長い稜線で、那須火山帯の名に代表されるように火山の山です。北端に位置する三本槍岳はすでに火山活動も終わり、浸食の進んだなだらかな稜線を持つ山ですが、今回登る茶臼岳は今も盛んに噴煙を上げる活火山です。
「那須は裾野によって生きている」とは深田久弥氏の日本百名山の中での一節。古くから広くすそ野を広げた山麓に牧などが営まれ、数々の名馬が育てられていたようで、このことは坂東武士や那須与一などの話からも容易に想像できます。また山麓には九尾の狐の伝説を今に伝える殺生石があります。西域の美女が日本に渡来して玉藻ノ前と呼ばれ、時の帝の寵を一身に集めたが、その正体は白面金毛九尾の狐。その怨念が殺生石に宿り、今も周辺には昆虫などの死骸が見かけられると言います。ペンションやレストランなど観光地としての色彩が強い那須も、古い歴史が息づくところのようです。
たどり着いた峠ノ茶屋の県営駐車場にはすでに数台の車が停まっていました。平日と言いながらこの山に登る人はかなり多いようです。駐車場からは明るい登山道を緩やかに登り始めます。ダケカンバなどの潅木林をしばらく登ると視界が開け、左手にはロープウェイの山頂駅、右手には朝日岳の赤茶けた岩肌が迫っています。
遊歩道のような明るい道を緩やかに登って行くと那須岳と朝日岳の鞍部にある峰ノ茶屋跡。ここは何時も強い風が吹き抜けるところで、立派な非難小屋が建っていました。目の前には朝日岳の赤茶けた岩肌。この山は三本槍岳に登った途中に立ち寄ったところで、登山道はその山肌を巻くようにして登って行った記憶が残っています。
峰ノ茶屋跡からは牛ヶ首に向かうことにします。茶臼岳の山肌を巻くようにして進む登山道は途中に噴気口などもあり、辺りには鼻を付く硫黄の匂いが漂っています。しばらく進むとゴーゴーを言う噴気の音とともに白い噴煙が立ち昇っていました。ここは無間火孔と言われる噴火口跡。昭和35年10月や昭和38年11月の小噴火はこの火口から噴火したと言います。ここはまだ地底の鼓動が息づいているところです。
しばらく歩いたところが牛ヶ首です。右手の道は南月山に向い登って行く道。緩やかに登る登山道にはミネザクラが咲いていると言います。たくさんのハイカーがロープウェイ駅側から登ってきました。かなりの年配のグループも多いようです。やがてロープウェイ駅に向かう道を右に分けると、登山道は火山礫に覆われた急な坂道を登りはじめます。真っ直ぐに登る登山道に思わず息も上ってしまいそうです。
山頂直下の岩隗を巻くとゴロゴロとした岩に覆われた山頂の一角です。目指す山頂は南西の端にありました。山頂の岩塊の上に立つと360度のパノラマが広がっています。目の前には赤茶けた岩肌も痛々しい朝日岳。ここから続く稜線の先には熊見曽根や三本槍岳、さらに左手には三倉山、大倉山などあまり馴染みのない山々が続いています。さらにその左手の大きな稜線は大佐飛山、その奥、雲海に浮かぶ双耳峰は数年前に登った鶏頂山のようです。大佐飛山のなだらかな稜線の奥には男体山や女峰山などの日光の山が連なっているようですが、霞む空の中に溶け込みその姿を見せてくれません。山頂はたくさんのハイカーで一杯です。初老のお爺さんやお婆さんのパーティに混じり、平日にもかかわらず若いカップルもいました。
山頂で昼食の後、車を停めた峠ノ茶屋に向け下ることにします。浅い噴火口を一回りし、峰ノ茶屋跡に向かう岩だらけの登山道を下って行きます。やがて牛ヶ首に向かう道を左から合わせると峰ノ茶屋跡です。学校の登山遠足でしょうか、たくさんの小学生が道端で休息していました。
12時を過ぎたのにもかかわらず、まだ峠ノ茶屋から登ってくるグループもいます。かなり軽装のハイカーも多いようです。やはりこの山は登山の対象というよりは、観光地の延長線の山といったほうが良い山のようです。
たどり着いた駐車場から那須の町へ。先週のNHKニュースで紹介していましたが、山腹の八幡地区には約10万本のツツジ類が群生していると言います。さっそく県営の駐車場に車を停め、ツツジを愛でて行くことにします。
ここに咲くツツジはヤマツツジとレンゲツツジ、それにベニサラサドウダン。ヤマツツジはすでにその盛りを過ぎたようですが、朱色のレンゲツツジや小さな釣鐘状の花を付けるベニサラサドウダンが咲き始めています。木道に沿ってしばらく進むと展望台があります。正面には那須の広大な丘陵、遠くに頭をもたげるなだらかな尾根は八溝山。振り返ると青空の下に茶臼岳を中心として南月山や朝日岳、鬼面山などの山々がそびえていました。
遊歩道のような登山道はムラサキヤシオが真っ赤な花を咲かせていました。道端にはイワカガミがピンクの花を付けています。しばらく登った道端には白いヒメイワカガミも咲いていました。