稲子湯からはしらびそ小屋を目指します。この道は天狗岳に登った時、下山道として利用した道です。明るい雑木林の中を緩やかに登っていく道は、トロッコの軌道跡が続く道で、昔は木材の切り出しに使われたと言われています。8月からのぐずついた天気で、苔むした林の中には色々なキノコが顔を出しています。なかには食べられるものもあるのでしょうが、キノコを採るのはやはり遠慮したいものです。
緩やかに登っていく道は時々ジグザグを切りながらミドリ池を目指して登って行きます。この付近の登山道は緑色に苔むした岩の間を緩やかに登っていく道で、北八ヶ岳の穏やかな雰囲気を感じさせてくれるところです。
たどり着いた小さな沢がこまどり沢です。案内板にはしらびそ小屋まで這っても30分とか。小休止ののち、再び緩やかな登りに汗を流すとシラビソの林の中に建つしらびそ小屋にたどり着きました。緑色の水をたたえる小さな池の先に雲に覆われた硫黄岳の山肌が霞んでいました。
しらびそ小屋は通年営業の山小屋で、冬期間も訪れる人は多いといいます。小屋番をしていたおばさんの話ではこの小屋は索道で荷揚げをしているとか。今から冬のための薪の用意と言って、白樺の薪を積み重ねていました。
小屋の前で昼食をしたのち、みどり沼の渕を巻くようにして本沢温泉に向かいます。シラビソノ林の中を緩やかに登っていく登山道は、天狗岳の山腹を巻くようにして本沢温泉へ向かっていきます。突然、シラビソノ林の中にニホンカモシカを見付けました。初めて近くで見るその姿は小さな牛といったところです。しばらくこちらを見ていましたが、やがてシラビソの林の中に消えてしまいました。
小さく登った登山道はシラビソノ林の中を緩やかに下って行きます。やがて湯川という川沿いを小さく登っていくと本沢温泉です。林の中のキャンプ場には小さなドームテントの若者がここで一晩を過ごすとか。そろそろ寒くなってくる時期、テントでの生活も結構つらいものがありそうです。
本沢温泉に荷物を置いたのち、近くにあるという露天風呂を訪ねることにします。標高2,150mの露天風呂は日本最高所の露天風呂とか。しかし気温はかなり下がっているようで、温泉に入る気にはなれません。足だけを漬けて早々に宿に戻ることにしました。
夕食前にかけ流しという石楠花の湯に入ることにします。新館に造られた風呂はかなり熱めの風呂で、冷えた体には痛いくらいです。かけ流しというだけあって湯船の渕には白く湯の華が付いていました。
夕食は6時過ぎから。今日は我々以外に泊まる人もいないようで貸し切り状態です。旅館といってもやはり山小屋ということもあり、食事は山菜のてんぷらや保存の利きそうな材料を使ったものです。食材の運搬に車を利用できないということもあるでしょうがやはり山小屋以上、旅館未満といったところでしょうか。
消灯は8時です。朝が早かったこともありますが布団に入ると、朝までぐっすり眠ってしましました。
朝、起きると雨です。食事の前に朝風呂を浴び、早い朝食を済ませても雨はやむ様子もありません。小屋の人に聞いてみましたが「午前中は強く降ることはないが雨が・・・」
とりあえず夏山峠まで登って雨の具合を見てから硫黄岳に行こうとも考えてみましたが雨はますます強くなってくるようです。今日は大人しく稲子湯に戻ることにしました。
下山はしらびそ小屋を通らず、なだらかな林道をたどり下ることにしました。この道は車こそ通れないものの、本沢温泉にやってくる温泉客などのために整備されているもののようで、木の桟道や橋なども整備されています。荷揚げ用のトラクターなども登ってくることができるようです。
途中、地元に人が数人林の中でキノコ採りをしていました。ここで採れるキノコはハナイグチとか。甲州名物のホウトウなどに利用されているキノコと言います。地元の人でもキノコを見分けることは難しく、よく判ったでなければ絶対採らないとか。また場所によってはキノコを採るために入山料をとるところもあると言います。
たどり着いた稲子湯で、雨に濡れた体を温めてから自宅に戻ることにします。稲子湯は交通の便も良いことから、観光客以外に映画やテレビドラマのロケなどにも利用されているようです。廊下の壁にはテレビドラマの撮影の写真や色紙も飾られていました。
しらびそ小屋に登っていく登山道には紅葉を迎えるこの季節、眼をとめる花は見つかりません。お馴染みのトネアザミの他には、薄緑色の花をつけたハナイカリが咲いていました。この花は初めて見る花の一つで、長く延びた花弁が碇を連想させる花です。
本沢温泉からしばらく下った林道わきには秋の花が咲いています。しらびそ小屋に登る途中で見つけたハナイカリ、よく似たアケボノソウの花も咲いていました。