斜里岳は深田久弥氏の日本百名山にも選ばれた道東の独立峰です。一般の登山道にもかかわらず、滝や瀬などの連続する沢を登って行くコースのため、変化に富んだ山登りが期待できる山です。また田中澄江さんの花の百名山にもエゾゼンテイカの咲く山として紹介された、北国に咲く花に恵まれた山です。
登山口は清里の町から林道をしばらく登った清岳荘の脇にあります。さすが人気の山だけあって札幌など地元ナンバーの車のほか奈良や湘南ナンバーの車も目立つようです。登山口は清里の町から未舗装の林道をしばらく登った清岳荘の脇にあります。さすが人気の山だけあって札幌など地元ナンバーの車のほか奈良や湘南ナンバーの車も目立つようです。
登山口で登山届に記入した後、ダケカンバの雑木林の中の道を歩き始めます。やがて道は旧清岳荘の建っていた広場へと続く林道を緩やかに進んでいきます。
熊注意の看板が立つ旧清岳荘跡からは雑木林の中を登る登山道が始まります。やがて登山道は小さな滝や瀬などが続く一ノ沢を赤いペンキを頼りに徒渉を繰り返ながら登って行きます。たどり着いたところは下二段。右手には熊見峠へと登って行く新道コースが分かれていました。
ここから上二段までがこのコースの核心部分。幾つもの滝や瀬を超える沢登りの道が続いています。最初に現れたのは水蓮ノ滝、次に現れたのが三重ノ滝。白い水しぶきを上げる滝は真夏の暑さを忘れさせてくれそうです。
更にしばらく登ると羽衣ノ滝、万丈ノ滝などと名付けられた滝が現れます。滝に沿って岩場を登って行く所もありますが、岩は思いのほか滑りにくくまた固定ロープなども張られていました。やがてたどり着いたところが見晴らしノ滝。振り返ると清里の町並みの先にオホーツクの海が広がっていました。
ますます急になる沢には七重ノ滝、霊華ノ滝などの滝がかかり、滝の渕を登るところもあります。やがて沢が明るくなると水音も小さくなり、上二段の分岐点にたどり着きました。さらに明るくなった登山道を登って行くと胸突き八丁。付近一帯は短い北国の夏を彩る花が咲き乱れるお花畑です。
登りつめた尾根が馬ノ背。振り返ると広く開けた視界の先には青く霞む摩周湖や屈斜路湖。残念ながら知床の山々や国後の島影は低い雲に覆われていました。
馬ノ背で一休みした後、急な尾根道を山頂へと登って行きます。お花畑の中に続く岩屑の登りに汗を流すと斜里岳神社の小さな祠が祀られた広場。さらにひと登りすると小さなケルンが建つ斜里岳の山頂です。
山頂は独立峰だけあって360度の広い展望が目を楽しませてくれます。左手にはカムイヌプリの急峻な火口壁と青く水をたたえる摩周湖。その右手には青く霞む屈斜路湖。その上にそびえるのは雄阿寒岳、雌阿寒岳。さらに目を右に移すとパッチワークのように畑が続く清里の町並み。その奥にはオホーツクの海岸線とサロマ湖を見渡すことが出来ます。
振り返る知床方面は低い雲に覆われ、羅臼岳はもとより目の前の海別岳さえもその姿を見せてくれませんでした。
下山は新道コースを下ることにしました。上二段まで下りここから熊見峠へと登り返します。低いハイマツに覆われた尾根道は急な登り返しもなく心地よい尾根歩きの道です。熊見峠から下二段への下りは標高差400mほど。沢に向かって下る急な坂道は疲れた足にはなかなか辛いものがあります。ここからは今朝登り始めた沢沿いの道、幾つかの徒渉を繰り返すと登山口の清岳荘です。
下山後、清岳荘の管理人さんに聞いた話では、今年は増水のためか水の流れも少し変わっているとか。最近も疲れなどで下山が夜になる人や沢で滑落して動けなくなった事故もあったと言います。また北海道の山ではよくあることでしょうがヒグマの目撃情報も報告されているようです。
花の百名山に選ばれた斜里岳は花の多い山です。お花畑と言うような大きな群生はないものの、登山道には短い北国の夏を彩る花が目を楽しませてくれます。
清岳荘から一ノ沢へと向かい林道にもクルマユリや北海道ではおなじみのチシマアザミが咲いていました。
小さな滝や瀬の続く一ノ沢にも色々な花が咲いています。登山道脇には紫色のミソガワソウが咲いています。北海道に咲くミソガワソウは花が大きいことからエゾノミソガワソウと分類する書物もあると言います。また水際の岩場にはフキユキノシタが目立たない花を付けていました。
上二段から馬ノ背へと登って行く登山道はたくさんの夏の花が咲くお花畑です。黄色い花はチシマノキンバイソウ。シナノキンバイとよく似ていますがおしべの付き方が違うとか。しかし遠くからではその違いはあまり良く判りません。この山に咲くフウロウは白いトカチフウロウです。同じフウロウに薄い紫色のチシマフウロウがありますがこのお花畑には咲いていないようです。
関東周辺の山でもお馴染みのゴゼンタチバナやハクサンチドリ、ミヤマダイコンソウなどのほかにも、北海道の山でしか見られないエゾヒメクワガタやチシマヒョウタンボクなども見付けることが出来ました。
馬ノ背には風の吹き抜けるところのようで、メアカンキンバイやエゾツツジが小さな群落を作っています。馬ノ背から山頂へと登って行く尾根道も夏の花が咲いています。花の百名山に紹介されたエゾゼンテイカ。ナガバノキタアザミも登山道の脇に紫色の花を付けていました。