武佐岳は道東の中標津郊外に頭を持ち上げる標高1,000mを僅かに越える山。近くには高い山も少なく、日本百名山の一つに数えられる斜里岳も標高は1,500mをわずかに超える高さ。道東はハイマツに覆われた丸みのある頂が連なっている山域です。しかし国後の好展望台として有名な開陽台の傍に位置することから、武佐岳もまた国後や知床の山々を見渡すことの出来る展望に恵まれた山です。
たどり着いた武佐岳の登山口には貸し切りバスが停まっていました。ここからさらに笹に覆われたダートな道を進んで行くと車が数台停まれる駐車場がありました。ここに車を停め、明るい林道を緩やかに登り始めることにします。しばらくなだらかな林道を登って行くと三合目である武佐岳憩清荘にたどり着きました。
憩清荘からは幾分急になった登山道を登って行きます。トドマツの林の中を登る道は武佐岳の左の肩を目指しながら高度を上げていきます。涼しいと言われる道東でも、気温はかなり上っているようで、額からは玉のような汗が噴出してきます。やがて登山道はダケカンバとチシマザサの明るい稜線を登って行くようになります。
噴き出す汗に小休止を繰り返しながら、細くなり始めたダケカンバの稜線を登って行きます。登山道にハイマツが目立つようになってくると八合目。初老の女性が2人、ツアーバスで登って来た団体のメンバーのようですが、あまりの暑さで「今日はここを山頂にする・・・」とか。広く開けた八合目は広い展望が楽しめるところで、目の前には茫々とした中標津の原野が広がっていました。
八合目からも急な登りが続いています。山頂からはツアー登山の団体が下ってきました。「今日は暖房が入っていて山頂はちょっと暑いけど・・・」とは良く言ったものです。
やがてハイマツに覆われた稜線をひと登りすると、広い展望が広がる武佐岳の山頂です。目の前の小さな丘は開陽台。その先には霞むオホーツクの海、さらにその先には国後の山がそびえています。ここから国後までは直線距離で50kmほど。霞む国後の最高峰である爺爺岳までは130kmほどの距離があるとか。左手に目を向けると羅臼岳、その手前には遠音別岳や海別岳のなどの山々が連なっています。さらにその左手には斜里岳の山頂が黒いシルエットとなってそびえていました。振り返ると昨日登った摩周岳や西別岳、その奥には雄阿寒岳も霞んでいます。この山頂は地球が丸いことを実感できる山頂です。地球岬や犬吠崎など、海岸や岬では地球の丸さを実感できるところが多いようですが、この山頂は目の前に広大な根釧原野が広がっていることから、地球の丸さを実感できるところです。
山頂で出会った単独行の男性は地元の人か。北海道の山に良く登っている人のようで、北海道新聞社が発行した北海道夏山ガイドに掲載された山はすべて登ったとか。「新刊が出てくると新しい山が追加されるのでまた登らなければならない・・・」とか。ピークハンターもなかなか大変なものです。
山頂で広い展望を楽しんだ後、往路をたどり登山口に戻ることにします。途中、2度ほど休息をしたのち武佐岳憩清荘へ。小屋の前を流れる冷たい水で顔を洗ってから登山口に戻りました。
武佐岳はあまり花に恵まれた山ではありません。それでも登山道にはコバノイチヤクソウやクルマユリが咲いていました。朱色の大きな花を付け、車輪のような輪生する葉のクルマユリは遠くからもよく目立つ花です。