「夏がくれば思い出す。はるかな尾瀬・・」の歌に誘われ、始めて尾瀬を目指したのは16年も昔の夏のこと。ツアーバスに乗って大清水へ。ここから三平峠を超えて尾瀬沼へ。見晴十字路で一泊したのち尾瀬ヶ原をたどり鳩待峠へ縦走した記憶が残っていいます。
今回は早春の尾瀬に、ミズバショウの花を訪ねる山行です。ニッコウキスゲとともに尾瀬を代表する花。北海道の野山ではごくありふれたこの花も、雪解け直後の湿原に咲き乱れるその姿は観光ポスターでもお馴染みです。尾瀬ヶ原の登山口である鳩待峠まではシーズンを通してマイカー規制が行われているため、戸倉の駐車場から乗合バスで鳩待峠に向かうこととなります。
前日は戸倉の駐車場に車を停め仮眠です。広い駐車場には尾瀬を目指す車がかなり停まっていました。
4時過ぎ、携帯電話のアラームで目を覚ますと空はすでに白み始めていました。我々と同じように駐車場で仮眠をしていた人、近くの旅館に泊まっていた人などを乗せたタクシーは新緑の山道を鳩待峠へ。途中、タクシーの運転手さんが沢の向かい側にシラネアオイが咲いていると言っていました。日光と同じように、この付近も鹿による食害や盗掘などで、シラネアオイの数はめっきり少なくなっているようです。
たどり着いた鳩待ち峠からは石の階段や木道をたどり山ノ鼻に下って行きます。しばらく下ったところが川上川。尾瀬ヶ原に流れ込むこの川は折からの雪解け水を集め轟々と水飛沫を上げています。しばらく下ると登山道脇の沢にミズバショウがその姿を見せ始めました。やがてなだらかになった木道を下ると尾瀬湿原の入口である山ノ鼻です。
まずは山ノ鼻の自然探索路をひと回り。行き交う人は一眼レフを首にかけたり重い三脚を担いだり。この時期尾瀬を訪ねる人のお目当てはやはりミズバショウです。まだ雪が解けてから数日しかたっていないようで、目の前の湿原には芽を出し始めたばかりのミズバショウが白い花を付けていました。
自然探索路からは木道をたどり見晴十字路へ向かうことにします。振り返る至仏山の山肌には小さな子供が描いた恐竜のような形の雪形が残っています。ミズバショウの時期、尾瀬ヶ原には幾つかのビューポイントがあると言います。湿原の中にぽつんと立つ白樺の木や湿原の中から振り返る至仏山もそのひとつで、霧の中に霞む白樺や、咲き始めたミズバショウの花の上にそびえる至仏山は観光ポスターやインターネットのホームページなどでもお馴染みの景色です。
雪解け水をたたえた池塘からは牛のような低い鳴き声が響いてきます。よく目を凝らさなければ判りませんが、池塘の彼方此方で蛙が互いのパートナーを探しているようです。やがて目の前の燧ケ岳が大きくなると見晴十字路です。
見晴らし十字路から道を左に。この道を進むと赤田代を経て三条ノ滝に向かうと言います。しばらく進んだ分岐点から道を左に。ミズバショウとリュウキンカの咲く湿原を越え、増水した只見川を越えるとほどなく東電小屋です。尾瀬は東京電力の水源開発の中で保護がされてきたところで、木道にもTEPCOのマークが彫られていました。
東電小屋からは牛首の分岐点を目指して木道を進んで行きます。何処かの高校の生徒が、小学生のグループの世話をしながら木道を歩いてきます。ガイドブックを片手に花の説明をしたり子供たちに話しかけたり。兄弟が少なくなった最近、子供達が小さな子供の面倒を見ることは良い経験なのでしょう。時計はすでに1時を廻っているようですが、まだ登山遠足のグループ、何処かのハイキングツアーのグループなどが山ノ鼻から木道を歩いてきます。
正面の至仏山を眺めながら木道を進んでいくとほどなく山ノ鼻です。村営の尾瀬ロッジのベンチに腰を下ろし最後の小休止としました。
小休止の後は鳩待峠へ。登山遠足の子供達の集団に急かされるように木道を登って行くと、ほどなく乗合タクシーが待っている鳩待峠です。
この時期、尾瀬の湿原を飾る花はやはりミズバショウ。夏の時期にはニッコウキスゲやオゼヌマギク、ヤナギランなどの花が咲き乱れる湿原にも今咲く花の種類は多くないようです。それでも黄色い花を付けるリュウキンカを始めとしてザゼンソウ、可憐な薄紫のタテヤマリンドウなど。雪解け直後に咲くショウジョウバカマは湿原の彼方此方にピンクの花を付けていました。また芽吹きの始まっていない湿原を覆う潅木はヤチヤナギ。花の時期にはほとんど目立たない存在ですが、この時期はかなり目に付くものです。