笛吹川の上流に位置する東沢と西沢は国師ヶ岳と甲武信ヶ岳にその源を発する渓谷です。西沢は幾つもの滝や渕が連続する渓谷で、コバルトブルーの水の色とあいまって、紅葉の時期にはたくさんのハイカーが訪れるところです。
新宿発の甲府行き普通列車で塩山の駅へ。駅前から出発する西沢渓谷行きのバスは笛吹川に沿って雁坂街道を登って行きます。湯の平、天科温泉を左に見、ロックフィルダムの広瀬ダムを越えると、東沢山荘が建つ西沢渓谷の入口にたどり着きました。
広い山荘前には西沢渓谷の案内板があります。案内人の叔父さんの話では、途中には集中豪雨により通行できない所があると言います。笛吹川に沿う車道からナレイ沢橋を渡りしばらく進むと西沢山荘。山荘の前から沢沿いの道を進むと、やがて道は東沢に掛かる鉄製の東沢吊橋を渡ります。ここからは暗い林の中をたどる登山道が始まります。やがて右手に東沢への道を分けると木の間から西沢渓谷その姿を見せてくれます。途中、雨で崩れ落ちた道を大きく巻き、しばらく登ると三重ノ滝にたどり着きました。三重ノ滝は白い岩肌にコバルトブルーの飛沫が飛び交うダイナミックな滝です。
西沢渓谷の水は、鉱毒を含んでいるため独特のコバルトブルーの色をしているとか。これが白い花崗岩や渓谷の木々に映え、その景観をいっそう引き立てています。三重ノ滝から渓谷に沿う登山道を進むと竜神ノ滝、さらに進むと貞泉ノ滝が現れます。流れの中には大きな亀穴が幾つか。その一つは母胎淵と名付けられているようです。やがて方杖橋を渡り右岸を高巻くと正面に西沢渓谷のハイライトである七ツ釜五段ノ滝がその姿を現します。コバルトブルーの飛瀑を上げて落ちる滝と釜は残暑を忘れさせてくれる滝です。
七ツ釜五段ノ滝からは、軌道跡をたどり渓谷の入口まで戻ることとします。最初の急な坂道を登ると、軌道跡のなだらかな下り坂が続いています。木の間隠れに、鶏冠山の岩峰、これから続く木賊山、破風山のなだらかな尾根がそびえています。しばらく下ると林道に飛び出しました。子酉橋への近道を下り、橋を渡ると西沢渓谷入口は目の前です。
今回は歩行時間も短く、かなり早い時間に山を下りてしまいました。帰り道に武田信玄の菩提寺である恵林寺に足を延ばすことにしました。恵林寺前でバスを下りると古い参道が続いています。恵林寺は夢想国師の開山と言う古刹です。武田氏滅亡のとき織田信長の兵火に包まれた三門で、快川国師が「心頭滅却すれば火もまた涼し」と唱えたという話は今なお有名です。
西沢渓谷の登山道にはトリカブトが咲いていました。トリカブトは花が雅楽の楽人がかぶる鳥兜に似ていることから名付けられ花で、日本には40種ほどが自生していると言います。主なものにはエゾトリカブト、オクトリカブト、ヤマトリカブト、ホソバトリカブトなどがあります。エゾトリカブトは世界で最も毒性の強いトリカブトとか。アイヌの人達はこのトリカブトの根から抽出した毒矢で狩猟をしていたと言います。花が咲いている時期には見間違うことにないこの花も、若葉の季節にはニリンソウやゲンノショウコなどと似ているため、誤って摘み取り食中毒を起こすことも多いと言います。紫色の美しい花に似合わず、かなり危険な花の一つです。