新潟と長野の県境には頸城山塊と言われる山々があります。最高峰は標高2,462mの火打山、その東には複式火山である妙高山、さらに火打山の西側には火山活動のため長らく登山が禁止されていた焼山がそびえています。このれら3つの山々は頸城三山と呼ばれ、妙高高原を中心として夏はキャンプやハイキング、冬はスキーと多くの観光客を集めるところです。
また妙高山は越後富士とも呼ばれ古い信仰の匂いを今に伝える山です。妙高山は仏教の中心である須弥山(しゅみせん)とも呼ばれ、関山三社権現を中心に山岳信仰の霊山として崇められてきたと言います。現在も妙高村関山には関山神社が残っています。
上信越自動車道の妙高高原インターから一般道に降り、リフトやペンションなどが建ち並ぶ県道を登っていきます。牛が放牧されている笹ヶ峰牧場をすぎると程なく笹ヶ峰のキャンプ場にたどり着きました。乙見湖の湖畔に広がるキャンプ場にはキャンプの車も数台停まっているようで、週末には子供たちの歓声でにぎわうところのようです。登山口の駐車場にもすでに10数台の車が停まっていました。
笹ヶ峰登山口-0:40→1,525m-0:50→1,800m(十二曲り)-0:55→2,067m(富士見平)-0:55→高谷池ヒュッテ-1:10→雷鳥平-0:45→火打山-1:30→高谷池ヒュッテ(宿泊)
歩行時間 登り5:15、下り 1:30、合計6:45
高谷池ヒュッテ-1:05→黒沢ヒュッテ-0:30→大倉乗越-0:40→長助池分岐-0:25→2,170m-0:25→2,270m-0:20→妙高山-0:55→長助池分岐-0:25→2,035m(大倉乗越の手前)-0:15→大倉乗越-1:20→富士見平-0:45→十二曲り-1:15→笹ヶ峰登山口
歩行時間 登り3:25、下り 4:55、合計8:20
登山口で登山届を提出したのち、雑木林の中に続く登山道を緩やかに登り始めます。人気の山ということもあり、登山道には木道も整備されています。先行する小学生の一団は上越の子供たちとか、今日は火打山に日帰りで登ると言います。なかなか元気の良いものです。
緩やかに続く木道を登って行くと、やがて黒沢川を渡る橋にたどり着きました。ここからは本格的な登山道が始まります。ジグザグを切りながら登って行く道は十二曲りと呼ばれるところです。ジグザグを繰り返しながら高度を上げていくとやがて十二曲りの終わりを示す標柱が建つ小広場です。
十二曲りの標柱から少し登った道端で一息を入れたのち、再び急な坂道を富士見平へと登って行きます。この時間、登山道を下ってくる親子連れなどのパーティも多く、「昨日は雨にたたられ火打山にも登れなかった・・」などと話していました。
やがて登りも緩やかになってくると木道が現れました。いつの間にか木々の種類もシラビソなどが目立つようになると富士見平です。ここは黒沢ヒュッテと高谷池ヒュッテへ向かう道が分かれるところです。ここから富士山は直線距離で180km、条件が良ければ目の前に横たわる黒姫山の肩に富士山の頂が見えるようですが今日の天気では黒姫山さえもガスの中です。
富士見平からは木道が敷かれたなだらかな道を高谷池ヒュッテへ。明るく開けた登山道にはオオバミズホウズキやカラマツソウなどの花が咲いていました。イワイチョウの咲く小さな沢を超えしばらく歩くと三角屋根の高谷池ヒュッテにたどり着きました
ヒュッテで宿泊手続きを済ませたのち、リックサック一つに荷物をまとめ火打山に向かうことにします。登山道は高谷池のほとりを回り込むように続いています。小さく坂道を登ると高谷池が目の前に広がるところ。ここは観光ポスターなどでも紹介されている高谷池のビューポイントのひつつのようで、緑色の水をたたえる沼に三角屋根の高谷池ヒュッテが影を落としていました。
木道が敷かれた湿原はようやく雪渓が消えたところのようで、アオノツガザクラやコツガザクラに交じってピンクのハクサンコザクラが咲いていました。木道を緩やかに下った湿原が天狗ノ庭です。緑の水をたたえる池塘には真っ白なワタスゲが風に揺れ、木道のわきに目を落とすとあちこちにハクサンコザクラの小さな群生も幾つか。まだこの湿原は冬の目覚めからあまり時間がたっていないようです。
木道を過ぎると火打山の山頂に向かう登りが始まります。右手にには崩壊した鬼ヶ城の山肌が谷に向かって切れ落ちています。登山道に沿って咲くハクサンチドリやヨツバシオガマなどを眺めながら高度を上げていきます。振り返ると天狗ノ庭の池塘がはるか下に広がっていました。
明るく開けた稜線は徐々に高度を上げていきます。ヒメシャジンやミヤマオトコヨモギなど珍しい花も多く見付けることができる稜線は、やがて雷鳥平にたどり着きました。ここは遅くまで雪渓の残るところで、運が良ければライチョウにも出会うことができるところと言います。
雷鳥平からも急な登りが続いています。最後の登りに息を弾ませると広く開けた火打山の山頂にたどり着きました。ケルンが積まれた山頂は360度の展望が広がるところですが、巻き上がるガスに包まれ目の前に見えるはずの焼山もその姿を見せてくれません。展望が広がるのをしばらく待ってみましたが、一向にガスは晴れそうにありません。大人しく高谷池ヒュッテを目指し下ることにしました。
高谷池ヒュッテの食事は5時から、今日は人数が多いということで2交代での食事です。メニューはカレーライスとハヤシライス。ボッカに頼っている山小屋の常か北アルプスの山小屋に比べメニューは良いとは言えません。それでも残飯による自然の汚染を防ぐためセルフサービスになっているなど、かなり環境にも配慮した山小屋のようです。
朝目を覚ますと雲海の上に北アルプスが顔を出しています。さっそくカメラを肩に、近くのアルプス展望台に向かうことにしました。木道わきの小さな岩の上に登ると雲海の上に後立山の稜線が広がっています。正面には朝日を浴びる白馬岳。五竜岳、鹿島槍と続く稜線の奥には三角錐を天に向かって突き上げる槍ヶ岳も小さくそびえていました。
朝食ののち、お赤飯のお弁当を受け取り高谷池ヒュッテを後にします。登山道は茶臼山へと緩やかに笹の尾根道を登って行きます。左手に巻き上がる雲海の下には日本海が広がっているようですが、今日は雲のほか何も見えません。
登山道は黒沢ヒュッテを目指して明るい稜線を緩やかに下っていきます。やがて木道が現れると多角形のドームのような変わった屋根の黒沢ヒュッテにたどり着きました。
黒沢ヒュッテからは大倉乗越を目指して灌木の林の中を登っていきます。多少岩がゴロゴロしていますが、比較的登りやすい道です。たどり着いた外輪山の上が大倉乗越。目の前には目指す妙高山、左手には湿原の中に長助池が青い水をたたえていました。
大倉乗越からは灌木林の中を下ることになります。途中には固定ロープが張られた所もある急な下りです。しばらく下ると登山道は外輪山の斜面を巻くように下っていきます。小さな雪渓を超えると長助池に下る道を分ける分岐点にたどり着きました。ここから妙高山の山頂へは約1km。標高差で450mほどの急坂が始まります。
雪が溶けて間もない沢沿いの道を登り始めると、登山道は岩がゴロゴロとした急坂を登って行くようになります。真っ直ぐに山頂を目指して登って行く急坂と折からの蒸し暑さで息はすぐに上がってしまいそうです。やがて山頂直下の岩壁が見えるようになると、最後のひとの登りで稜線の上にたどり着きました。
さらに細くなった稜線をひと登りすると広く開けた妙高山の北峰です。岩壁の上とは思えないほど広く開けた山頂には百名山を示す標柱と三角点がありました。日本海側から巻き上がるガスで山頂からの視界は期待できません。雲の中からわずかに顔を出した火打山もすぐに巻き上がるガスの中にその姿を隠してしまいました。
山頂からは南峰へと続く道が続いています。露岩に覆われた南峰には妙高大神を祭る石祠があります。岩場の山頂は女子高生の一団で溢れています。池ノ平スキー場などから登ってきたのでしょうか。妙高山だけを登るならば池ノ平などから登ったほうが楽なのかも知れません。
山頂で一休みしたのち、黒沢ヒュッテを目指した急な坂道を下っていきます。まだ山頂を目指して急な坂道に汗を流している人もいます。たどり着いた長助池への分岐でテントを背負った単独行の若者に出会いました。妙高山の登りは北アルプスよりきついと嘆いていました。
ここからは大倉乗越に向かい登り返しが始まります。固定ロープを使いながらようやく登り詰めた大倉乗越で小休止。さらに緩やかに下って行くと黒沢ヒュッテです。
ここからは明るく開けた黒沢池の湿原を富士見平へ。木道の続く湿原は人の少ない尾瀬ヶ原と言ったところでしょうか。ワタスゲが風に揺れる湿原を超えると、シラビソの林の中をたどる小さな登りが始まります。やがて目の前が明るく開けると富士見平にたどり着きました。
富士見平で一休みした後、十二曲りへ。さらにジグザグを繰り返しながら高度を落としていくと黒沢川を渡る橋です。あとは木道の道を笹ヶ峰の登山口へと下って行くだけです。
火打山は花の多い山です。お目当てはやはりハクサンコザクラ。7月の中旬までが花の最盛期のようですが残雪の多い湿原では、8月まで雪渓が残っているところもあります。このためハクサンコザクラも花の時期は意の外、長いようです。