丹沢の前衛峰に予てから気になっていたシダンゴ山と言う山があります。ガイドブックにはカタカナで表記されていますが地図などでは震旦郷山。シダンゴウは梵語の羅漢(仏教の修行を積み、さとりに達した人)を意味するシタゴンが転じたものとか。何れにしても古い歴史の流れの中に息づく信仰の山のようです。
低山にもかかわらずハイカーに人気の山となっている理由の一つは、展望の素晴らしさといえるでしょう。目の前に広がる相模湾の眺めもさることながら、伊勢沢ノ頭から檜岳、蛭ヶ岳、塔ノ岳、大山と続く丹沢の山々のパノラマは一見の価値がある山です。
大寺橋近くの駐車場に車を停め、まだ紅葉の残っている集落の中を登って行きます。折からの好天に誘われてか年配のパーティが列を作って登っていました。やがて鹿避けの柵を越えると暗いヒノキ林の中を登る登山道が始まります。登山道は一度、キャンプ場の脇の林道を登って行きますが、ほどなく暗いヒノキ林の中の登りになります。
登山口から1時間10分、たどり着いた馬酔木の山頂は360度の展望を楽しむことが出来るところです。目の前には伊勢沢ノ頭と檜岳、その奥には丹沢の最高峰である蛭ヶ岳、その右手には鍋割山から塔ノ岳に続く稜線がそびえています。ダルマ沢ノ頭の左手には頭を雲に隠した富士山、更にその左手の奥には金時山や明神ヶ岳など箱根の山々が霞んだシルエットとなって続いています。広く開けた湘南の海に浮かぶのは大島などの島影、左手の遠い霞の中には房総も見え隠れしていました。
山頂からはヒノキの林の中を緩やかに下って行きます。反対の宮地側からも数組のパーティが登って来ました。やがて小さなピークを越えると宮地山への鞍部です。ここから鹿避けのフェンスに沿って巻くようにして雑木林の中を進むと宮地山山頂直下の広場にたどり着きました。本当の山頂はヒノキの林の中にあるようですがフェンスに覆われ入ることは出来ません。
下山道は先ほどの鞍部に戻り雑木林の中を下って行きます。登山道には落ち葉が厚く降り積もり、歩くたびにシャカシャカと心地良い音を立ててくれます。雑木林の斜面をしばらく下ると鹿避けのフェンスが登山道を塞いでいました。最近の丹沢は鹿が多くなったようですが、このような人気の多い山里にも鹿は下りているようです。ここからはお茶畑の中を大寺橋の登山口へと下って行きます。時計はまだ2時前、目の前には明るい晩秋の日を浴びた丹沢の峰々がそびえていました。