スキーのゲレンデとして有名な志賀の山々も、夏になればお花畑や池塘をめぐる山旅を楽しむことができる山域です。横手山はエゾオヤマノリンドウが咲く山として、花の百名山にも紹介された山です。山頂までスカイレータとリフトを乗り継いで登ることができるため、広い山頂はいつも観光客で賑わっているところです。しかし、四十八池への登山コースを下って行くと、山頂の喧騒を忘れる静かな山歩きができます。
登山口脇の駐車場に車を停め、スカイレータと言う動く歩道とリフトを乗り継ぎ、横手山の山頂へ向かいます。空港などでお馴染みの動く歩道ですが、このような山の中にあるのはさすが観光地。花の季節にはニッコウキスゲが斜面を彩るようですが、今はまだ蕾も固いようです。たどり着いた山頂は広く開け、何処かのレストランを思わせる山頂ヒュッテが建っています。食堂のメニューは自家製のパンが目玉とか。ここは完全に観光地の一角です。ヒュッテの脇には近くの山野草を集めた小さな花壇があります。今のこの山域に咲く花はクロユリやイワカガミなどのようです。
山頂から急な木の階段を下っていと登山道は広いゲレンデを横切り、コメツガの林の中を下って行きます。振り返ると横手山が青空をバックにそびえています。やがて道はネマガリダケに覆われた明るい稜線を下って行きます。更にしばらく下ったところが草津峠。左手に分かれる道は硯川に向かう草津街道です。古い時代には急峻な渋峠を越える道より、芳ヶ平から登ってくるこの道が利用されていたと言います。
ここからは緩やかな斜面を鉢山へと登って行きます。道端のネマガリダケの藪には、小さな笹の子が芽を出していました。たどり着いた鉢山は古い火山。山頂には火口湖の跡という沼もあるようですが、藪に覆われ踏み跡さえも見つかりません。ここからは急な斜面を四十八池へと下って行きます。しばらく急坂を下っていくと四十八池にたどり着きました。あずま屋の建つ湿原は小さな尾瀬といったところ。ワタスゲの白い穂が風になびく高層湿原には、大小の池塘が静かに志賀山の影を映していました。硯川から登ってきたのでしょうか、2、3歳の男の子が父親に手を引かれながら木道を渡っていました。
四十八池に別れを告げ、鉢山と志賀山の間をたどる遊歩道を硯川に向かいます。しばらくすると視界が開け、左手には青く水を湛えた渋池。ひょうたん池、蓮池へ向かう道を右手に分けると、ほどなく前山スキー場にたどり着きました。付近一帯は明るく開けた草原で、ワタスゲの白い穂が風に揺れています。振り返ると低くなり始めた日の光を浴びながら、横手山がそびえていました。
たどり着いた硯川にはホテルが数件ほど建っています。ここからは車を停めた横手山の登山口まで戻ることにします。1日数本という路線バスはすでに3時ころが最終とか。仕方なく日が落ちかけたアスファルトの国道をおよそ1時間半。疲れ始めた足にはなかなか疲れる登り坂です。
横手山のコメツガなどに覆われた急な坂道には、イワカガミが房のような真っ赤な花を付けていました。白い大きなコミヤマカタバミやミツバオウレンの花。しばらく下った道端には、桜が薄いピンクの花を付けていました。