杓子山は石割山とともに富士山の北東に位置する明るい草原状の頂きを持つ山です。富士山と対峙することから、富士山の好展望台としてガイドブックにも紹介されている山です。登山道は忍野から鳥居地峠を経て山頂を目指すコース、山頂から更に隣の鹿留山へと縦走するコースなどが紹介されています。今回は富士吉田側の大明見から山頂を目指すことにしました。
JR中央線の小淵沢行き普通列車で大月駅へ。大月駅から富士急行で下吉田駅に向かいます。下吉田駅に着いたのは10時過ぎ。電車の接続があまり良くないと言いながら、富士山周辺の山へのアプローチは時間のかかるものです。
下吉田の駅前でタクシーを拾おうとしましたが、客待ちのタクシーはおろかほとんど人影もありません。しかたなく大明見まで歩くことにしました。大明見への道路標識に従い左折すると正面に杓子山がその姿を現わしてくれます。右手には雲一つない冬の青空に、白い雪を被った富士山が大きな姿を見せてくれます。やがて不動ノ湯入口のある大明見。しばらく歩くと家並みは尽き、砂利の多い農道が左手の山裾を縫いながら緩やかに登っています。やがて道は赤松の林の中をたどる林道となり、鳥居地峠への道を右に分けます。さらにしばらく登るとひなびた不動ノ湯にたどり着きました。
不動ノ湯からしばらく登ると正面のガレた沢の上に杓子山がその頂を見せてくれます。下吉田駅から歩き始めてそろそろ2時間。緩やかに登る林道も、これほどアプローチが長くなると、そろそろ飽きはじめてきます。やがて杓子山と高座山の稜線上の大権道峠にたどり着きました。正面の大きな富士山を眺めながら小休止です。
小休止の後、急な杉の植林帯の中を頂上に向かい登りはじめます。やがて杉林が切れるとカヤトの原が広がる杓子山の山頂にたどり着きました。
山頂からは富士山が真っ青な冬空に雪を被り、その大きな姿を見せてくれます。富士山の右手には節刀ヶ岳、黒岳などの御坂山塊の山々や青く水をたたえた河口湖。その向うには白く雪を被った南アルプスの山並みが続いています。さらにその右手には山頂にテレビのアンテナを林立させた三ツ峠山。まさに遮るもののない360度の素晴らしい展望です。
山頂で展望を楽しみながら昼食をした後、下山を始めることにします。ガイドブックでは杓子山から鹿留山を経て忍野村の内野に下るコースがあるようですが、時間も遅いため下山後のバスの便が不安です。このため、鳥居地峠から高座山を経て下吉田に戻ることにしました。
山頂からは滑りやすい尾根道を大権道峠まで下って行きます。ここから幾つかの小さなコブを越え、登り返した小高い頂が高座山。正面にはそろそろ傾きかけた冬の陽を浴びながら、真っ白な富士山がいよいよ高くそびえています。明るい山頂から麓にかけては冬枯れのカヤトが、冬の陽を浴び黄金色に光っていました。
高座山の山頂からは急斜面を下りはじめます。登山道は土が露出し滑りやすい道です。ようやく降り立った林道は富士山のビューポイントの一つのようで、富士山に沈む夕日をカメラに納めようとしているのでしょうか、ジープが2台止まっていました。我々は沈みはじめた陽に追われながら、鳥居地峠に向かうことにしました。
たどり着いた鳥居地峠は、その昔たくさんの旅人が通ったという旧鎌倉往還の通る峠。現在は舗装された林道が通っています。ここからは道を右にとり、今朝登ってきた道を下吉田に下ることにします。鳥居地峠からおよそ1時間半。暗くなりはじめた冬空に一番星を捜しながら下っていくと下吉田の町です。