日本百名山の一つに数えられる鳥海山は、田中澄江の花の百名山にもチョウカイフスマの咲く山として紹介されている山です。また鳥海山の固有種であるチョウカイアザミの咲く山としても知られています。
最高峰である新山は1801年(享和元年)の噴火により出来たもので、最近では1974年(昭和49年)にも小規模な噴火を起こしたと言います。鳥海山の山麓に広がる象潟も、昔は松島のように大小100あまりの島が点在するところであったようですが、1804年(文化元年)の大地震で隆起し、今は陸地になっているとか。「松島は笑ふがごとく、象潟は恨むがごとし」を詠った松尾芭蕉がこの地を訪れたときは、まだ松島のような景色広がっていたと伝えられています。
鳥海山への登山コースは、八丁坂、吹浦コースなどが開かれています。中でも表玄関とも言う象潟コースは高山植物に恵まれたコースで、御浜神社の前に広がる鳥ノ海とともに、鳥海山の魅力を楽しめる人気のコースです。登山口は鳥海山ブルーラインの鉾立から始まります。コースが長いこともあり、前夜は鉾立の駐車場に車を停め仮眠しました。
目を覚ますと空はすでに白み始めています。気の早いパーティはすでに出発の仕度をしていました。登山口から遊歩道のような道を登ると鉾立の展望台です。目の前には奈曽川の渓谷が深く切れ落ち、白糸ノ滝が細い糸のように懸かっていました。まだ明け始めたばかりの空の下には黒々とした鳥海山のシルエットがそびえ、振り返ると霞みの中に日本海が広がっていました。
展望台から奈曽渓谷の尾根に沿った道を緩やかに登って行くと、やがて賽ノ河原にたどり着きます。右手には7月という時期にもかかわらず、まだ雪渓が融けずに残っていました。
賽ノ河原からは小さな沢沿いの道を登って行きます。チシマザサの斜面には高山植物も咲き始めています。しばらく急な坂道を登って行くと御浜神社にたどり着きました。目の前には鳥海山のシンボルでもある鳥ノ海が青い水をたたえています。この小さな湖は鍋森、笙ヶ岳に囲まれたカルデラ湖で、湖畔にはまだ白い雪渓が残っていました。蔵王のお釜や乗鞍岳の不肖ヶ池を思い出させるような火口湖独特の色をした湖です。
御浜神社からは咲き乱れる高山植物をカメラのファインダーに収めながら、なだらかな坂道を登って行きます。扇子森という小さな頂を越えたところが御田ヶ原。名前からすると湿原などがあったようですが今は標識が建っているだけです。ここから登山道は石の階段が続く八丁坂を下って行きます。
八丁坂から急な坂道を登り返すと七五三掛です。右手の道は外輪山の稜線を登る道、左手の道は千蛇谷から山頂直下の大物忌神社を目指す道です。
七五三掛からは沢に向かい急な梯子を下って行きます。下りきった沢は千蛇谷と言われるところで、左手にそびえる荒神ヶ岳と右手にそびえる外輪山の絶壁に囲まれた細長い谷です。登山道は雪渓を横切り、荒神ヶ岳の山麓を巻くように登って行きます。雪渓の上には外輪山の絶壁から落ちてきた落石が転がっていました。急になり始めた登山道に息を切らせながら高度を上げていくと再び小さな雪渓を横切り、御室小屋へ向かう急な登りにさしかかります。
ジグザグを切りながら急な登りにひとあえぎすると大物忌神社です。背後には岩を積み重ねたような新山のドームがそびえていました。
大物忌神社に参拝してから新山に向け岩に覆われた登山道を登って行きます。白い矢印が続く登山道は足がかりも多く、それほど危なくはないもののやはりちょっとした岩登りです。やがて登山道は切り通しと言われる岩の裂け目にたどり着きました。およそ10メートルほどの岩壁に出来た裂け目を抜けると新山の山頂です。岩の山頂からは遮るもののない360度の展望が広がっていました。しかし近くにはあまり高い山がない独立峰と言うこともあってか、山岳展望としては少し物足りなさを感じるのは自分だけでしょうか。
山上で展望を楽しんだのち、岩の登山道を下って大物忌神社へ。神社前の広場に腰を下ろし遅い昼食としました。
昼食の後、外輪山の最高峰である七高山を回って鉾立に戻ることにします。大物忌神社からは山頂直下の大きな雪渓を横切り、外輪山の壁を直登する急な坂道を登って行きます。たどり着いた外輪山の稜線で道を左に。少し登ったところが外輪山の最高点である七高山です。目の前は垂直に切れ落ち、その先には先ほど登った新山の岩だらけのドームがそびえていました。
七高山からは外輪山の稜線を緩やかに下って行くことにします。しばらく下ると先ほどからポツポツ降り始めた雨が激しくなってきます。雨脚は少しづつ強くなりやみそうな気配もありません。久しぶりに雨に打たれながら鉾立の駐車場を目指しました。
賽ノ河原から御浜神社へ登っていく斜面にはコバイケイソウの大きな花、ニッコウキスゲも斜面を黄色に染めていました。
御浜神社付近はチングルマやハクサンイチゲ、ヨツバシオガマなどが咲き乱れるお花畑です。白やピンクの小さな花弁が短い東北の夏の日を浴びながら精一杯にその艶やかさを競っていようです。
八丁坂の登山道に咲くアザミはチョウカイアザミと言うこの山の特産種です。日本に100種類ほどあると言うアザミは特産種も多く、なかなか見分けが難しいものです。東北だけでもこの山に咲くチョウカイアザミ、月山のナンブタカネアザミ、岩木山で見たミネアザミなどがあります。
大物忌神社近くの砂礫地には、花の百名山にも紹介されているチョウカイフスマが咲いていました。チョウカイフスマはメアカンフスマの変種とか。ネットなどで調べると同種と紹介されているものもあり、その違いは明確でないようです。
外輪山の稜線もまた花の多いところです。アオノツガザクラやコイワカガミ、それにハクサンシャクナゲの花が目を楽しませてくれました。