栗駒山はイワカガミの咲く山として花の百名山に紹介されている山です。また秋ともなれば真っ赤に色付いた紅葉を楽しむことができる山として、東北を紹介する観光パンフレットなどでも有名な山です。登山道は須川温泉のある須川コースと、イワカガミ平から登って行く中央コースや東栗駒コースなどが整備され、シーズンにはたくさんの登山客でにぎわうところです。
須川温泉の傍から始まる散策路は名残ヶ原へと緩やかに登って行きます。たどり着いた名残ヶ原は木道が続く小さな尾瀬と言ったところ。この付近までは須川温泉を訪れた観光客も登ってくるようで、小さな子供連れやスニーカーを履いたカップルもチラホラ。名残ヶ原の外れで道を右に。木道をしばらく進むと賽ノ磧にたどり着きます。ここは栗駒山の中央火口丘である剣岳の爆裂火口跡のようで、微かに硫黄の匂いが漂う荒涼とした景観は、北海道のイワオヌプリの火口原を思い出すところです。
賽ノ磧からは分岐点に戻り潅木の中をひと登り。ほどなく登山道は苔花台という分岐点にたどり着きます。ここで産湯に向かう道を左手に分けると、登山道は地獄谷(ゼッタ沢)といわれる沢沿いの道を登って行くようになります。左手の斜面からは有毒な硫化水素が噴出しているようで、潅木の中には茶色に枯れているものもあります。ここから少し登ったところが昭和湖。火山湖独特のコバルトブルーの水をたたえた小さな湖は昭和19年に水蒸気爆発で出来た火口湖とか。まだ火山ガスが噴出しているのか、水際の湖底からは小さな泡が湧き上がっていました。
昭和湖からは急な階段が続いています。一歩々、岩混じりの坂道を踏みしめながら高度を上げていくと徐々に視界が開け、左手にはこれから登る栗駒山のなだらかな山頂。降り返ると夏雲の下に焼石岳の大きな山並みが広がっています。やがて登山道は須川分岐にたどり着きました。ここで道を左に。明るく開けた稜線をたどる登りは吹き抜ける風も気持ちの良いところです。しばらく登ったところにある大きな岩は天狗岩。やがて登山道は右手が切れ落ちた稜線の上を緩やかに登って行きます。心地良い稜線をひと登りすると広く開けた栗駒山の山頂です。栗駒山国立公園と書かれた大きな標柱と栗駒神社の小さな社が建っていました。
山頂からは夏雲の下、360度の広い展望を楽しむことが出来ます。北側には焼石岳、その右手に霞むのは早池峰山。左手遠くには夏雲の下に鳥海山が霞んでいるようです。しかし東北の山はあまり訪れたことがない悲しさ、山岳同定も思うに任せません。この山頂から眺める山々もその山頂に足跡を残したのは鳥海山だけです。
山頂からは産湯をたどり須川温泉に下ることにします。背丈ほどの根曲がり竹が登山道を覆う急な坂道を下って行きます。やがて傾斜が緩やかになると、ツツジやイワハゼなどの潅木に覆われた心地の良い稜線になりました。更にしばらく下ると、左手に産沼といわれる小さな沼が現れました。
産沼からは潅木林の中を沢に向かって下っていきます。やがて登山道は磐井川上流の沢とゼッタ沢の2つの沢を渡ることになります。関東周辺の山では小さな沢でも丸木の橋などが整備されていますが、東北や北海道の沢では飛び石伝いに渡渉するところが多いようです。登山道の整備がなされていないと言うよりは、まだまだ自然のままの山が残っていると思ったほうが良いのでしょう。飛び石を頼りにゼッタ沢を渡渉すると先ほど分かれた苔花台の分岐です。ここからしばらく下りと名残ヶ原湿原。更にしばらく下ると須川温泉にたどり着きました。真っ赤な鳥居の建つ源泉からは、もうもうと湯気を上げる白濁した温泉が流れていました。
名残ヶ原の湿原は、すでに花の時期を過ぎているようで、目立った花は咲いていません。それでも湿原の中に目を落とすと白い花をつけたウメバチソウ、湿原でお馴染みのマルバノモウセンゴケ、秋の花であるアキノキリンソウなどを見付けることが出来きます。
須川分岐へと登って行く登山道にはシロバナトウウチソウが咲いていました。またアザミの花も咲いています。東北はアザミの種類が多いようです。鳥海山でも見つけたチョウカイアザミなどのほか、岩木山のミネアザミなど。特産種も多いと言います。