火山の山である十勝岳連峰の中にあって、最南端に位置する富良野岳は、比較的早い段階で火山活動を終えたことから、緑の多い山として、また高山植物の咲き競う山として有名です。また、1200メートルを超える十勝岳温泉を登山口としていることもあって、比較的簡単にその山頂に立てる山として、家族連れなどのハイカーにも親しまれている山です。
札幌から一般道をたどり富良野へ。上富良野からは登山口のある十勝岳温泉の駐車場へ、真っ暗な山道を登って行きます。途中、ライトの中にキタキツネの親子が飛び出すなど、十勝の山はまだ自然に溢れているようです。たどり着いた十勝岳温泉の駐車場にはすでに数台の車が停まっていました。我々も駐車場の一角に車を停め仮眠をとることにします。
目を覚ますとあたりはすでに明るくなっています。まずは安政火口を目指すこととします。ヌッカクシ富良野川に沿って登るこの道は安政火口までの散策路ともなっており、よく整備された道です。やがて道は枯れ沢となったヌッカクシ富良野川の川原に下って行きます。ここからは安政火口への道を左に分け、D尾根と言われる支尾根の裾を回りこみながら三峰山沢へ。緩やかに登る登山道はハイマツに覆われ、イワブクロやイソツツジが咲いています。D尾根を回り込むと目の前に富良野岳が大きな姿を見せてくれました。やがて左手に上ホロカメットク山への登山道を分けると三峰山沢です。
三峰山沢で小休止の後、三峰山の裾野を回り込むようにして稜線上の分岐を目指すことにします。小さな沢にはまだ雪渓が残り夏山を彩る花が咲き乱れています。黄色いウサギギクやピンクのヨツバシオガマ、雪が融けて僅かしか経っていないのか、エゾノツガザクラやアオノツガザクラが小さな群落を作っていました。緩やかに登っていく登山道はやがて稜線上の分岐点にたどり着きました。ここで再び小休止です。振り返ると赤茶けた火口壁をめぐらせる安政火口。その上には夏雲が舞い上がる十勝岳がそびえていました。
小休止の後、登山道は細くなった稜線を登って行きます。付近一帯は見事なまでのツガザクラの群落。チングルマやウサギギクなども今を盛りに咲いています。
最後の急な登りに汗を流すと小広い富良野岳の山頂にたどり着きました。ここからも広い展望を楽しむことができます。正面には原始ヶ原。池糖が点在する高層湿原は、尾瀬のように観光地化されていないところとか。しかし時々クマの噂も聞く所です。右手には青く連なる稜線の上に芦別岳や夕張岳がその尖った頂を突上げています。振り返ると夏雲を抱いた十勝岳。赤茶けた安政火口の上に今でも噴煙を上げる火の山です。少し早いがコッヘルを出して昼食としました。
夏山を彩る花を愛で、広く開けた展望を楽しむ。深田久弥氏の日本百名山によく使われる「至福のとき」とはまさにこのような時をさすのでしょうか。
昼食の後、十勝岳温泉へと下ることとします。途中、稜線上の分岐点からは三峰山を経由して上ホロカメットク山へ向かうパーティも多いようです。おそらく2時間ほどで上ホロカメットク山の頂きに立てるのでしょうが、今日はおとなしく登山口を目指すことにしました。