十勝連峰の最高峰である十勝岳は、深田久弥氏の日本百名山のひとつに名前を連ね、多くのハイカーに楽しまれている山です。しかし数十年の周期で噴火を繰り返し、近郷の村落に多くの被害を出していることでも有名です。噴火に伴う泥流が白金温泉一帯を襲い大きな被害をもたらしたというニュースが記憶に残っています。また最近でも昭和63年の小噴火で一時期、十勝岳を中心とする山域が登山禁止になっていたとか。今も噴火口からは白い噴煙を上げている火の山です。
札幌から一般道をたどり美瑛へ。美瑛からは十勝岳温泉美瑛線をたどり数件のホテルが建っている白金温泉へ向かいます。幾つかのカーブを繰り返しながら高度を上げて行くと、登山口のある望岳台にたどり着きました。北海道はこの数週間が夏山の最盛期。広い駐車場もすでにたくさんの車で溢れていました。
駐車場脇の道端に車を停め、火山礫に覆われた登山道を緩やかに登り始めます。登山道の両脇にはイソツツジやマルバシモツケ、ミネヤナギなどの高山植物が今を盛りに咲いています。やがて道はリフトの終点にたどり着きました。リフト小屋の脇に腰を下ろし目の前の景色を楽しみながら、朝食です。
ここから左手に分かれる道は雲ノ平を経て美瑛岳へと向かう道。十勝岳への登山道は、非難小屋の脇を通り小尾根の上へと登って行きます。正面の瓦礫の斜面は前十勝岳をたどり山頂へと向かうコースですが、昭和60年から閉鎖となっているようです。石炭ガラのような歩きにくい火山礫に覆われた登山道をひと登りして尾根に上がると、目の前に大きな火口が広がっています。左手の大きな火口は擂鉢火口。右手の広大な窪地はグランド火口です。良く晴れた青空の下、擂鉢火口の先には荒々しい火口壁をめぐらせる美瑛岳。その後ろには大雪の山並みが霞んでいます。
擂鉢火口からはグランド火口の縁を緩やかに登って行きます。右手には62-Ⅱ火口が盛んに噴煙を上げていました。山頂直下の急斜面は火山灰が厚く降り積もり、登山靴も埋まってしまいそうな登りです。登り難い斜面に息も上がってしまいます。
火山礫の急な登りに汗を流すと目指す山頂です。広く開けた山頂は十勝連峰の最高峰だけあって、素晴らしい展望が広がっています。目の前には美瑛岳と鋸岳のゴツゴツとした稜線。振り返ると上ホロカメットク山や富良野岳。左手のなだらかな窪地は原始ヶ原でしょうか。しばらくすると山頂は吹き上げる雲で、視界が利かなくなってきました。あと20分も遅く山頂にたどり着いたなら、この展望を楽しむことは出来なかったようです。
山頂での昼食の後、登山口に戻ることとします。山頂直下の急斜面は、富士山の砂走を思わせる所です。登る時は右手の稜線を登ってきましたが、下りは登山道を外れ火山灰の厚く積もった斜面を走り降りることにします。砂走もそうでしたが、厚く積もった火山灰がクッションになりなかなか楽しい下りを楽しむことが出来きます。
グランド火口の縁を回り、擂鉢火口から急な小尾根を下ると十勝岳非難小屋の前にたどり着きました。ここで最後の小休止です。
小休止の後、火山礫の降り積もった登山道を緩やかに下って行きます。たどり着いた駐車場は相変わらずたくさんの車で溢れています。我々のように山を降りてきたハイカーもいますが、半数近くは望岳台まで車で登ってきた観光客のようです。
みやげ物屋の叔父さんに訪ねると、白金温泉に国民保養センターという日帰り入浴の施設があると言います。急なカーブを下って行くと、数件のホテルが建つ白金温泉です。目指す国民保養センターは赤い屋根をした小さな建物です。小さな風呂は温泉というよりはどこかの銭湯といったところ。それでも日帰りの家族連れが数組入浴をしていました。