夕張山地の最高峰である芦別岳は、芦別川の支流であるユーフレ川に土削られた鋭い岩壁をめぐらせ、北海道の山としては珍しいクライミングコースとして有名な山です。天にそびえ立つ急峻なその頂きは、遠く大雪の山頂からもはっきりと認めることができると言います。登山道は、夫婦沢から北尾根をたどり山頂を目指す旧道と、半面山から雲峰山の稜線をたどる新道コースが開かれています。何れも登山口である山部自然公園から標高差で1,400メートル。ガイドブックに紹介されている行程も7時間半という上級コースに位置付けられる山です。
行程が長いため札幌からの日帰りは難しいようです。前日、山部自然公園の小さな駐車場で仮眠し、早朝から山頂を目指しました。
目を覚ますとすでに辺りは明るくなっていました。天気予報では日中は天候に恵まれると言いますが、今は真っ白い霧に包まれています。
登山道は暗い樹林帯の中を真っ直ぐに登る急坂から始まります。やがて幾分傾斜も緩やかになると、明るい雑木林の中をたどる道となります。尾根筋が広いのでしょうか、展望はまったく利かない単調な登りが続いています。しばらく登ったところが見晴台。先ほどまで辺りを覆っていた霧の上に出たようで、振り返ると真っ白な雲海の上に十勝岳の山並みが浮かんでいます。
展望台からは再び単調な登りに汗を流すことにします。やがてユーフレ小屋から登ってくる道を合わせると鶯谷です。尾根道の上にありながら谷の名前が付いているのは珍しいものです。
ここから尾根筋は幾分細くなり、右手は熊ノ沢に向かって深く切れ落ちているところもあります。木の間越しにユーフレ川をはさんでそびえる夫婦岩の岩肌を眺めながら、一歩々高度を上げて行きます。急な登りも何箇所かあり、なかなか疲れる尾根道です。目の前に屏風岩の荒々しい岩峰が近づいてくると半面山。山頂は南面が広く開け、雲海の上には金山付近の山が見えているようです。正面にはこれから登る雲峰山と芦別岳がそびえていました。
半面山からは雲峰山を目指すことにします。登山道は雲峰山とのコルである熊ノ沼へと下って行きます。この付近からは森林限界を超えたようで、明るい熊笹に覆われた登山道には黄色いウザギギクが咲いていました。雨で土削られた坂道に汗を流すと広く開けた雲峰山の山頂です。
たどり着いた山頂は小広いコブといったところ。目の前にはこれから登る芦別岳の山頂。右手は本谷に向かい深く切れ落ち、本谷を挟んで聳え立つ荒々しい岩壁をめぐらした北尾根。中でも夫婦岩とその岩壁に刻まれるXルンゼが目を引きます。
雲峰山からは、明るく開けたお花畑の中をジグザグを切りながら山頂へ。息を切らせながら高度を上げて行くとやがて山頂直下の岩場です。西側を巻くようにして岩場を登ると目指す芦別岳の山頂にたどり着きました。
小さな岩場の山頂からは360度の大展望が目を楽しませてくれます。正面には大きく切れ落ちる本谷。左手には本谷を取り巻くようにして連なる北尾根の岩稜群。右手には今登ってきた雲峰山とそれから続く長い稜線。振り返ると恐竜の背中のようなゴツゴツとした岩稜がそびえていました。南側、鉢盛山の向こうに夕張岳が見えるはずですが、湧き上がる夏の雲の中にその姿を隠してます。昨年、夕張岳から芦別岳を眺めたことがあります。しかしこの時も夏雲がその山頂を覆っていた記憶が残っています。わずかしか離れていない二つの山も、同時にその姿を眺めることは難しいようです。
展望を楽しみながら山頂でおにぎりの昼食です。昼食の後、往路をたどり登山口に戻ることにします。
途中、半面山で小休止した後、再び急な坂道を登山口へと下って行きます。登り始めてからすでに6時間近く。やはり急な下りは足に堪えるものがあります。思わず途中の見晴台で小休止としました。ここでは数組のパーティが休息していました。そのうちの一人、30歳前後の若者は旧道をたどって着たと言います。登りが5時間と言うから、なかなかの健脚です。
小休止の後、疲れた足を引きずりながら登山口に。歩き始めてから7時間を越える山はやはりきつい山の一つに入りそうです。
山頂直下の斜面は遅くまで雪渓が残っているところで、春先には滑落の危険もあるとか。このためか夏山を彩るたくさんの花で溢れているお花畑です。濃い紫色の花はチシマフウロウ。トカチフウロウに比べ紫色が濃いようです。
山頂直下に咲いていたアザミはチシマアザミ。アザミは種類も多く見分けるのはなかなか難しそうな花の一つです。