田中澄江の花の百名山にも紹介された夕張岳は夕張山塊の南側に位置し、最高峰は隣の芦別岳に譲るものの、固有種であるユウバリソウやユウバリコザクラなど、たくさんの花々に彩られた山です。アルプスやヒマラヤなどを生み出した造山運動の時代、日高山脈とともに形作られた比較的古い山で、アポイ岳と同じように蛇紋岩と言う超塩基性の地質を持つことが固有の植物を育む要因の一つとなったと言います。登山口はペンケモユーパロ川に沿った林道からと金山林道からの2本。札幌から近いこともあり、ペンケモユーパロ川からのコースが良く利用されているようです。
札幌から国道274号線、234号線をたどり夕張の町へ。桂沢湖に向かう国道452号線をしばらく走るとシュウパロ湖です。先日からの雨で水嵩が増したシュウパロ湖を右手に眺めながら道を進めていくと小さな橋がかかっています。ここから登山口である林道の終点までおよそ14km。途中、路肩が崩壊しているところもあり、かなり荒れた林道です。たどり着いた林道の終点にはすでに10台ほどの車が停まっていました。
林道終点のゲートからしばらく車道を登って行くと道は2手に分かれます。左手の道は馬ノ背コースと言われる稜線沿いの道、右手は冷水コースと言われる沢沿いの道です。今日は比較的なだらかな冷水コースを行くことにします。しばらく単調な登りを繰り返していくと第1の水場、冷水沢です。
冷水沢で小休止の後、傾斜を増した登山道を登って行くと第2の水場、前岳ノ沢です。急な坂道をひと登りすると、左手より馬ノ背コースを合わせ、明るいダケカンバの稜線を登っていく道になります。左手には木間越しに姫岳の岩峰がその姿を見せてくれます。登山道には白いイチヤクソウがたくさん咲いていました。白いイチヤクソウにはマルバノイチヤクソウ、コバノイチヤクソウ、ジンヨウイチヤクソウなど幾つかの種類があり、区別はなかなか難しそうです。
登山道は前岳の左手の肩に向かい急な斜面を登って行きます。木の階段が付けられていますが、なかなか辛い登りです。登りつめた台地が石原平。シラネアオイの群生地はすでに花の時期を過ぎ、青い糸巻きのような実を付けていました。
露岩の多い稜線をしばらく進んだところが展望台。正面には姫岳の岩峰群。遠くに見えるのはシューパロ岳と雲にその頭を隠した芦別岳です。振り返ると前岳の岩峰が真っ青な青空にそびえていました。
ここからの登山道は前岳湿原に向かう山上の遊歩道と言ったところ。ミソガワソウやシナノキンバイの咲く登山道を緩やかに下ると憩沢です。小さな沢を染めるシナノキンバイの群落はなかなか見事なものです。憩沢から緩やかに登り返すと夕張岳の花園、前岳湿原です。木道が敷かれている小さな湿原にはワタスゲやミヤマリンドウが咲いています。すでに時期を過ぎていたようですが、エゾゼンテイカが咲き残っていました。
前岳湿原からは、なだらかな稜線をたどる心地良い道を進んで行くことになります。明るい稜線には白いウメバチソウが咲き乱れています。大きなガマ岩の脇を通り抜けるとひょうたん池と言われる小さな沼。振り返るとダケカンバの茂みの上に前岳の岩峰が小さく見えていました。しばらく進むと右手が大きく崩れ落ちた蛇紋岩の露岩帯。夕張岳の固有種といわれるユウバリコザクラやシソバキスミレの咲くところと言いますが、今はシロウマアサツキのピンクの花が風に揺れているだけです。
ここから登山道は湿性植物のお花畑の中を緩やかに登って行きます。エゾノシモツケソウとイブキトラノオの群生する草原にはシオガマギクやウサギギクが咲いています。夏の草原を彩る花々を楽しみながら木道を登って行くと、大きな釣鐘岩の直下にたどり着きました。展望台からすでに1時間。この道端に腰を下ろし小休止です。
小休止の後、熊ノ峰と釣鐘岩の間を登って行くと吹き通しといわれる砂礫地です。左手、金山側が広く開けた砂礫地には、如何にも高山植物のような厚い葉を持つユキバヒゴダイ。お世辞にも綺麗とはいえない紫の花には、たくさんの蝶々やアブが飛び回っています。残念ながら白い花を付けると言うユウバリソウは花の時期を過ぎているようで、枯れた花柄だけが目に付きました。
ここから登山道はハイマツの中を山頂に向かって登って行きます。露岩の混じる急な登山道にはイワブクロやミヤマダイコンソウ、サマニヨモギなどの花が咲いています。やがて真新しい社が見えると夕張岳の山頂は目の前です。
良く晴れ渡った山頂からは、多少霞んではいるものの360度の展望が目を楽しませてくれます。振り返ると今たどってきた登山道が緩やかな稜線の上に続いていました。その向こうにそびえる岩峰は前岳、その右手に雲を巻き上げるのは姫岳。正面に霞む稜線には幌尻岳や戸蔦別岳など、日高主稜線上の山々がそびえているようですが、展望図でもなければなかなか同定は難しいものです。広く開けた左手は金山方面。大きな金山ダムが夏空の中に霞んでいました。
山頂の岩場に腰を下ろし、コッヘルを取り出して多少早いが昼食としました。山頂にはトンボがたくさん飛んでいます。短い北海道の夏はそろそろその盛りを過ぎ、秋のけはいが忍び寄り始めているようです。
田中澄江の花の百名山にも選ばれたこの山は、今まさに花の真っ盛りを迎えているようです。 その特産種であるユウバリソウは白い花の咲くウルップソウの変種で、吹き通しの砂礫地に群生しています。残念ながら花の時期は7月の初旬のようで、今は花の終わった穂だけが風にゆれています。
同じ吹き通しにはユキバヒゴダイが群生していました。またここに咲くヨツバシオガマは本州のそれに比べ大柄で花の段数も多く、キタヨツバシオガマと言われています。この他に、ユウバリコザクラやシソバキスミレなど、夕張岳の固有種も多くあると言いますが、何れも花の時期はすでに終わっているようでした。