奥多摩の蕎麦粒山から川苔山への東京都と埼玉県を分ける県界尾根は訪れる人も少なく、昔日の奥多摩の味わいを色濃く残している静寂のコースです。蕎麦粒山はそのような稜線の頂の一つで、蕎麦の三角形の形から名付けられていることは容易に想像できます。標高1,500mに満たない山にもかかわらず、登山道は東日原から一杯水を越えを長い縦走コースが一般的なため、かなりの体力が要求されるコースです。
ヨコスズ尾根への登山口は、東日原のバス停のすぐ後ろにあります。登山道は日原川の谷合いに点在する集落の間を登り始めます。やがて集落が切れると登山道は暗い杉の植林帯の中を登る急な坂道になります。しばらく暗い杉林の中の急な登りに息を切らせながら高度を上げていくと、両側の林はブナ、ミズナラ、アセビなどの雑木を中心とする明るい林に変わってきます。やがて尾根筋に上がると展望が開け、まだ芽ぶいたばかりの木々の間から奥多摩の山並みを見渡すことが出来ます。奥多摩の最高峰である雲取山を中心とし、右手には白岩山、酉谷山などの長沢背稜。その手前には天祖山が明るい春の日を浴びていました。
尾根筋に上がってからは登りも緩やかになり、気持ちの良い尾根道が続いています。登りつめた一杯水避難小屋は明るい台地の上に建てられています。小屋前の広場にはベンチがありました。ここでコッヘルを出し昼食です。
三ツドッケは、ここから左手の道をしばらく登ったところにあるようです。しかし今日は行程も長いので、右手の道を蕎麦粒山へと向かうことにします。
落葉松の林の中を緩やかにたどる尾根道をしばらく進むと一杯水の水場。ここからは展望はないものの落ち着いた尾根歩きの道が続いています。しばらく尾根道をたどると左手に仙元峠への道を分ます。この道は秩父の浦山口に続いていると言います。さらにしばらく尾根道をたどると蕎麦粒山への登り口を示す指道標が建っています。
クマ笹が多少うるさい登りに息を切らせると蕎麦粒山の山頂です。明るく開けた山頂からはこれからたどる日向沢ノ峰と川苔山。その向うには大岳山、御前山、三頭山などの奥多摩三山と、その上に白い頭だけをのぞかせた富士山。右手には石尾根とそれから続く六ツ石山、鷹ノ巣山。振り返ると武甲山と秩父の山並み。明るい春の光を浴びる山々の展望が広がっていました。
蕎麦粒山からは広い防火帯の上に付けられた尾根道を、日向沢ノ峰へとたどることにします。雑木林に囲まれた広い登山道は多少のアップダウンはあるものの、気持ちの良い尾根道です。登り着いた最初の頂は日向沢ノ峰の北峰。左手に仁田山を経て有間山へとたどる道が分かれています。鞍部から登り返した頂が南峰。左手に棒ノ折山に向かう道が分かれています。
山頂からの展望は非常に素晴らしく、振り返ると今たどってきた蕎麦粒山の三角形の山頂。雲取山、酉谷山などをはじめとする奥多摩最深部の山並みが手に取るように眺められます。
日向沢ノ峰からは川苔山へと尾根道を進んで行きます。日向沢ノ峰からの下りは非常に急な下り坂です。下り切った鞍部が踊平。左手に大丹波川林道への道が続いています。ここからは横ガ谷平に向け明るい登山道を登って行きます。急な登りに息を切らせると曲ガ谷北峰の山頂。ここから急坂を鞍部へと下り、川苔小屋の前から小さく登り返すと、ようやく川苔山の山頂にたどり着きました。時間もすでに4時を過ぎ、低くなった春の日の下、今日最後の展望を楽しみながら小休止とします。
川苔山からは下り慣れた鳩ノ巣駅への登山道を下ることとします。暗い林の中をたどる急坂は、疲れた足にはかなり応える下りです。やがて大根ノ山ノ神の小さな祠を過ぎると鳩ノ巣駅までは僅かの道程です。
奥多摩は今がスミレの真っ最中。登山道の両脇には紫の小さな花が風に揺れていました。奥多摩のスミレには3種類があるようです。最も数多く咲いているのはお馴染みのタチツボスミレ、ピンク色をしたのスミレはエイザンスミレです。濃い紫色の花を付けたのはノジスミレでしょうか。
また奥多摩は今がツツジの花盛りです。まだ芽吹きも始まっていない雑木林の中に、花灯りのようにピンクの花が咲いていました。