刈田峠駐車スペース-(1h05m)-杉ヶ峰-(0h55m)-屏風岳-(1h10m)-不忘山-(1h25m)-屏風岳-(0h30m)-芝草平-(1h15m)-刈田峠駐車スペース
NHKの花の百名山に選ばれた不忘山は南蔵王に位置する花の山です。エメラルドグリーンの水をたたえる蔵王のお釜は何時も観光客で賑わうところです。しかしエコーラインの通る刈田峠から南は南蔵王と呼ばれ訪れる人も少ない静かな山域です。ここには宮城県の最高峰である屏風岳を越えて不忘山へと続く花に彩られた縦走路が続いています。
不忘山はまた戦時中、B29が墜落したところとしても知られています。昭和20年3月10の東京大空襲に前後し3機のB29が吹雪の不忘山山麓に墜落したと言います。不忘山にはこの時の戦死者の霊を慰めるとともに平和を祈る不亡の碑が建てられています。
たどり着いた刈田峠からは有料道路で刈田岳に向かいます。山頂までの数百メートルだけの有料道路は蔵王のお釜を見るためだけに造られた観光用の有料道路です。真っ白いガスに包まれた駐車場に車を停め刈田岳の山頂へ。石畳の遊歩道をひと登りすると幾つものケルンが造られた刈田岳の山頂です。山頂には刈田神社の奥宮が祀られていました。
しばらくするとガスの中からお釜がその姿を見せてくれます。ガスの中では幾分くすんだ色をしていますが、怪しげなコバルトグリーンの湖面とそれを取り巻く赤茶けた山肌の組み合わせは多くの火口湖の中でも一、二を競う美しさと言えるでしょう。
刈田峠周辺の道端には数十台の車を停めることができる駐車スペースがあります。すでに10台以上の車が停まっているようで、この山の人気の高さがうかがえるところです。南蔵王の案内板が建つ登山口からは緩やかな下りが始まります。木道が敷かれた道にはミツバオウレンなどに交じってスミレなど春の花が咲いています。右手に広がる小さな湿原にはチングルマに交じって白いヒナザクラの花も咲いていました。
登山道は前山に向かって明るい稜線を登り返します。前山の山頂には道標があるものの、登山道のなかの通過点と言ったところです。一度小さく下った登山道は杉ヶ峰へと登り返していきます。
小さく開けた杉ヶ峰の山頂には3等三角点があります。生憎の曇り空の下では視界は全く期待できません。山頂でひと息を入れた後、屏風岳へ向かうことにします。小さく下った湿原は芝草平と呼ばれるところで、木道が続く明るい湿原にはチングルマやヒナザクラが咲き乱れていました。
ここからは屏風岳への登りが始まります。緩やかに登って行く登山道にはミネザクラの花も咲いていました。今年は桜の花を見る機会が多かった年で3月中に九州で見たソメイヨシノに始まり、6月になっても丹沢でマメザクラやウスズミザクラ、今この稜線で見るミネザクラ。短いと言う桜の花も場所が違うと色々の花に出会うことができるようです。
烏帽子岳へ向かう道を左に分けると程なく屏風岳の山頂です。南北に長い稜線上の頂は宮城県の最高点の高みで、山頂標識の脇には1等三角点もありました。
この頂で再びひと休みを取ったのち、南屏風岳に向かいます。水引入道コースの道を左に分けると、登山道はシャクナゲの咲く稜線を緩やかに下って行きます。
緩やかに登り返した南屏風岳からは不忘山に向かいます。今までのなだらかな稜線歩きの登山道に変わり岩まじりの細い急坂を下ることになります。この稜線はハクサンイチゲやユキワリコザクラに彩られたお花畑です。登山道に目を落とすとミヤマオダマキが紫色の花を付けていました。
細い岩まじりの急坂を登り返すと不忘山の山頂にたどり着きました。山頂の北側には小さな石祠が祀られています。役小角が吉野山から蔵王権現を勧請しこの山に祀ったと伝えられていますが、この石祠も古い信仰の匂いを今に伝えているところです。ここからは白石の街並みが見えているようですが梅雨時の濁った空の下では展望を楽しむこともできません。振り返るとまだ斜面に雪を残した屏風岳がまさに屏風のようにそびえていました。
不忘山からは往路をたどり刈田峠に戻ることにします。南屏風岳への登り返しに汗を流すと後は屏風岳までは緩やかな尾根道です。屏風岳から緩やかに下って行くと芝草平です。木道をたどると湿原を一望するベンチが置いてありました。シラビソの林に囲まれた湿原を一望するところで、ここにはまだ手付かずの自然が残っているようです。杉ヶ峰、前山の頂を越えると刈田峠は目の前です。峠の上には霞んだ空の下に刈田岳の頂がそびえていました。
たどり着いた刈田峠からは国道4号線へ下ることにします。途中には蔵王寺というお寺がありました。赤いよだれかけを付けたたくさんのお地蔵さん、その近くには二中遭難供養塔が建っていました。大正7年、仙台第二中学校の教師、生徒9名が刈田岳と熊野岳の間で吹雪のため遭難した慰霊塔です。今は観光地となっている山も、ひとたび牙をむくと人の命を奪う事故になるものです。
不忘山は花の百名山に名を連ねるだけあって花の多い山です。湿原に咲く白いコザクラはヒナザクラ、東北の湿地帯に咲くコザクラで他のコザクラに比べ花が小さいことからヒナの名前が付いたと言います。
南屏風岳から不忘山に向かう稜線はたくさんの花に彩られたお花畑です。この稜線の主人公はハクサンイチゲ、白い花が急な斜面に咲き乱れています。またこの斜面に咲くコザクラは高山や亜高山帯の岩礫地に咲くユキワリコザクラ、ユキワリソウの変種で北海道や東北に多いと言います。