松尾芭蕉もその山頂に足跡を残したという月山。修験道の霊場としてまた山岳信仰の対象として広く知られた東北の名峰です。月山、羽黒山、湯殿山の出羽三山を巡拝する登拝道は、関東の大山講や富士山の富士講などとともに、古くから多くの人々の信仰を集めてきた道です。深田久弥氏の日本百名山の一つにも数えられ、遅くまで雪渓の残る山として、また高山植物に彩られた花の山として多くのハイカーを魅了してきた山です。
登山道は八合目の月山高原ロッジから登っていく羽黒口コースのほか、湯殿山から登って行く修験道のコース、姥沢から登って行くコースが開かれています。今回利用する羽黒口コースは高山植物の多いコースで、距離が長いものの比較的登りやすいコースと言います。
月山八合目駐車場の目の前に広がる湿原は弥陀ヶ原。木道の続く湿原にはたくさんの花が咲いています。この湿原を散策に来たカップルなどに混じり、数組の家族連れが山頂を目指していました。先日の御嶽山のように、登拝を目的とした人達も前を歩いています。近郊の人か、言葉にも東北の雰囲気がにじんでいます。
木道が切れると登山道は右手の尾根に向かって緩やかに登って行きます。しばらく登ったところが一ノ岳。遅くまで雪渓が残っているところで、あたりは高茎草原のお花畑になっています。これから山頂まで1時間ほどとか。あまり先を急いでも仕方ないので、開けた草原に腰を下ろし小休止としました。
小休止の後、再び明るい尾根道を登って行きます。高度を上げるにつれて山肌を霧が包むようになってきました。しばらく登った台地が仏生池。小さな池の辺には数体の地蔵像が立っています。ここから登山道はオモワシ山の左側を巻きながら登って行きます。目の前の大きな岩は行者返し。溶岩帯特有のゴツゴツした岩は、月山が火山であったことを物語るものです。ミヤマハンノキの斜面を緩やかに登って行くと稜線上にたどり着きました。木道が敷かれた登山道は整備が行き届き、まるで何処かの遊歩道といったところです。左手から吹き上げる霧に急かれながら道を急ぐと石垣に囲まれた月山の山頂です。
狭い山頂一帯は月山神社の奥ノ院。ここも祈祷料が500円。立山の雄山もそうでしたが、山頂が有料というのは頷けないものがあります。山頂は吹き上げる霧に包まれ視界はまったくききません。たくさんの人で溢れる休息所に入り、とりあえず昼食のお握りをほおばることにしました。
しばらく待ってみましたが吹き付ける霧は一向に収まる気配がありません。仕方なく登山口を目指して下って行くことにします。しばらく下ると行者返しの岩場。この付近になると先ほどまでの霧が嘘のように晴れ上がり、目の前には鶴岡の町並みが広がっています。仏生池から更にしばらく下ると弥陀ヶ原です。木道をたどっていくと登拝者の宿泊所ともなっている弥陀ヶ原参篭所がありました。
たどり着いた八合目の駐車場から狭い林道を羽黒町へ。長い夏の陽もそろそろ傾きかけていましが、羽黒山神社に参拝していくこととしました。暗い杉の林の中の有料道路をひと登りすると、羽黒山神社の大きな駐車場。まだ数台の観光バスが停まっています。
羽黒山神社は三社合妃の神社とか。ここに詣でると羽黒山、月山神社、湯殿山神社三社に詣でたご利益があるとか。神社の裏手には真っ赤な風車が風に揺れていました。水子を奉ったとお寺ようですが、このような所にも神仏混合の名残が残っているようです。
そろそろ傾きかけた陽に急かせるように羽黒山を後にします。途中、広く開けた第3駐車場からは夕日を浴びた月山を見ることができます。青く晴れ渡った空の下にそびえる月山も、山頂の一角だけはまだ白い雲に覆い隠されていました。
仏性池から山頂にかけての明るい尾根道は高山植物に彩られたお花畑です。目立つ花がけでもハクサンシャジン、モミジカラマツ、ハクサンイチゲ、それにタテヤマウツボグサ。野山に自生するウツボグサと違い紫色の花はなかなか綺麗なものです。ここに咲くアザミのような花はナンブタカネアザミとウゴアザミの2種類。ウゴアザミは月山と飯豊山の特産種とか。東北に咲くアザミの仲間にはミネアザミ、ウゴアザミ、ナンブタカネアザミなどがあり見分けが難しいものです。