3万年ほど前の大噴火でコニーデ型の山頂部分が吹き飛ばされたと言う駒ヶ岳は、道南の屈指の明峰です。深田久弥氏の日本百名山の選に漏れていますが、その後書きで「その山を眺めただけで、実際に登っていないという不公平な理由で除外した・・」と述べているように、百名山の資格に十分な山の一つです。
今も盛んに煙を吐いている活火山で、記録にあるだけでも寛永17年(1640年)、安政3年(1856年)、昭和4年(1929年)と大噴火を繰り返し、近郷の村や町に大きな被害を出していると言います。火口原の中に走る割れ目は昭和17年(1942年)の中噴火のときに作られたもの。最近では平成8年3月にも小規模な水蒸気爆発があり、今なお盛んに活動を続けている火山です。
札幌から一般道をたどり函館へ。大沼トンネルを越えると凾館の町です。まだ眠りから覚めていない凾館の市街地をしばらく走ると凾館駅です。凾館の名物はやはりイカ刺し。今日の朝食はイカ刺し定食ということで「きくよ食堂」の暖簾をくぐりました。普通の家庭料理のような器を使っていますが、やはりイカだけは一味違うようです。わざわざ凾館まで足を伸ばしたかいがあったというものです。
朝食の後、凾館山に足を伸ばしてみることにします。数年前にも夜景を眺めにこの山に登ったことがあります。長崎の稲佐山や神戸の六甲山とともに日本三大夜景のひとつに数えられている夜景はなかなかのものであった記憶が残っています。ロープウェイ駅のそばから、暗い木立の中の道をしばらく登って行くと函館山の山頂です。若者のグループでしょうか、広い駐車場には数台の車が停まっていました。
凾館山からは駒ヶ岳を目指すこととします。大沼を超え右手に雲を被った駒ヶ岳を眺めながら国道を戻って行きます。凾館本線の駒ヶ岳駅で国道を分かれ右手の別荘分譲地区に。ガイドブックで紹介されている登山口への道は土石流などで通行止めになっています。案内図を頼りに濛々と砂埃を巻き上げる山道を登って行くと6合目の登山口です。広い駐車場にはすでに数台の車が停まっていました。
ここからは目の前にそびえる馬ノ背を目指し明るい砂礫の道を登って行きます。登るにつれ視界は開け、降りかえると曇り空の下に広がる大沼や小沼。その向こうには凾館の町が霞んでいます。幾度かの噴火の影響なのでしょうか、付近一帯は潅木すらも生えていない火山特有の荒れた砂礫地です。それでもミネヤナギやシラタマノキが単調な登山道に潤いを与えています。
やがて登山道は馬ノ背にたどり着きました。目の前には荒涼とした駒ヶ岳の火口原が広がっています。白い煙を上げている火口は昭和17年の噴火でできたもの。駒ヶ岳はアイルランドなどの火山のように裂け目噴火をすると言います。長い亀裂に沿って点のように火口が連なっていました。2年前の水蒸気爆発で火口周辺は立ち入り禁止になっているようで、砂原岳へと向かう登山道は途中で通行止めとなっていました。
馬ノ背からしばらく登って行くと剣ヶ峯の基部。見上げる剣ヶ峯は標高差50メートルほどでしょうか。ゴツゴツとした溶岩の塊のような岩壁は登山道も付けられていないようで、登るのも大変なようです。ここからの展望はなかなか素晴らしいものがあります。正面には大沼や小沼。その向こうに広がる凾館の町。降りかえると砂原岳の右手には太平洋が、左手には噴火湾が広がっています。付近一帯は遮るものがないため強い風が吹き抜けています。夏の最中と言いながら体感温度もかなり下がっているようです。
まだ昼時にはあまりにも早いようです。小休止の後、登山口を目指し下って行くこととしました。馬ノ背から登山口を目指しザラザラした登山道を下って行きます。山麓まで下っても食事を出来そうな場所はありそうにもありません。八合目のベンチに腰を下ろし多少早いが昼食としました。
帰りには温泉にでも入って行こうと言うことで駐車場を後に。途中、森の道の駅に車を停め小休止です。
森の道の駅からは噴火湾に沿った国道5号線を北へ。長万部からしばらく行ったところに二股ラジューム温泉があります。古くから湯治客などに利用されていますが、北海道の中でも秘湯に属する温泉の一つです。狭い道道をしばらく登って行くと、温泉のガイドブックなどにも紹介されている独特のドームが建っていました。
古びた温泉宿には湯治客や日帰りの客など、結構たくさんのお客さんが入っているようです。脱衣所こそ男女に分かれていますが浴槽はすべて混浴。お婆さんが入っていることはよくある話しですが、若い女の子がバスタオルで胸を隠して入浴しています。なかなか目の置き場に苦労するものです。この温泉は温泉の沈殿物が長い年月をかけて創り出した巨大な石灰華の上に建っています。露天風呂も石灰華をくり抜いて作った珍しいものです。
1ヶ月後の10月25日。テレビでは駒ヶ岳噴火のニュースを伝えていました。平成8年3月の水蒸気爆発以来の噴火というから、2年半ぶりの噴火です。幸い今回の噴火は小規模な水蒸気爆発ということで、特に大きな被害なども報じられなかったようです。また噴火そのものも数日後には終息したようです。噴火がもう少し早かったなら、駒ヶ岳への山行を断念せざるを得なかったかも知れません。
今なお地底の息吹を伝える火山、温泉などの恵みを与えてくれるとは言いながら、時には大きな被害を我々におよぼす山です。北海道には駒ヶ岳以外にも登山の対象になっている活火山は多いようです。
≪北海道を代表とする活火山≫
■ 知床硫黄岳 | ■ 恵庭岳 |
■ 摩周(摩周湖中央火口丘) | ■ 樽前山 |
■ アサトムプリ(屈斜路湖中央火口丘) | ■ 倶多楽 |
■ 雌阿寒岳 | ■ 有珠山 |
■ 大雪山 | ■ 北海道駒ヶ岳 |
■ 十勝岳 | ■ 恵山 |
■ 丸山 | ■ 渡島大島 |
屈斜路湖の中央火口丘であるアサトムプリや倶多楽、渡島大島など、登山の対象にならない山もあります。