かねてからその山頂を踏んでみたいと思っていた山の一つが木曽の御嶽山。深田久弥氏の日本百名山の一つに数えられるこの山は北アルプスの最南端に位置する独立峰で、最高峰である剣ヶ峰を中心として摩利支天山、継子岳、継母岳などの外輪山から構成されるコニーデ型の火山です。最近は1979年に噴火し、山腹の火口からは今でも噴煙を上げていると言います。
古くから山岳信仰の山として多くの信者を集めた山で、今でも白装束に身を包んだ信者で賑わう山です。その山頂には御岳神社の奥ノ院が祭られ、登山道には信仰に由来する仏像や祠などが点在していると言います。
今回は比較的簡単に山頂に立てると言う王滝コースを利用しました。登山口の田ノ原は国道19号線から御嶽湖の湖畔を通り御嶽スカイラインへ。中央道の塩尻インターからは一般道で100km近くの長いアプローチです。やはりこの山域はかなり遠い山域です。
三岳村から道を右に折れ、御岳湖に沿って続く狭い道を大滝村へと登って行きます。大滝村からは御岳スカイラインで田ノ原湿原へ。夏はキャンプ場、冬はスキー場となるこの高原には、たくさんのロッジや土産物やなどが点在しています。たどり着いた田ノ原湿原の駐車場はすでにたくさんの車で溢れていました。
目の前の石の鳥居をくぐると登山道が始まります。右手には立派な遥拝所が建っていました。やがて道は岩がゴロゴロとした本格的な登山道になります。両脇の木々も背の低いダケカンバなどの明るい潅木林になってきました。やがて森林限界を超えると登山道は岩屑に覆われた急坂になります。道端に腰を下ろしおにぎりの朝食です。
朝食の後、再びゴツゴツした岩屑に覆われた急坂に汗を流すことにします。標高はすでに2,500メートル。照り付ける真夏の日光もさほど暑く感じられません。しばらく登ったところが八合目。ここには真新しい石室が建っています。さらに急な登りに汗を流すとおひと口水といわれる水場です。雪解け時にはそれなりの水量があるのでしょうが、いまは滴り落ちるほどの水しか落ちていません。ここから登山道は枯れた沢の中を登る急な登りになります。目の前には白装束に金剛杖を持った信仰登山の一行。大山講や富士講などと同じように、この山にもたくさんの講があるのでしょう。声をかければ「ようお参りやす・・・」。これがこの山の挨拶のようです。
急な登りにひと汗を流すと外輪山の一角、王滝山頂です。右手には王滝山頂神社。左手にはおみくじやお札を扱う社務所が建っています。拝殿の前では幣をもった中年の女性が一人、真剣に祈りをささげていました。
王滝山頂からは岩屑の積み重なる剣ヶ峰を目指すことにします。八丁タルミといわれる鞍部には真っ黒い霊神像が祭られています。ここから登山道は岩屑の斜面を剣ヶ峰へと登って行きます。ようやくたどり着いた剣ヶ峰は御岳山山頂神社の一角。立派な神殿のそばには神像が数体。賽ノ河原や地獄など仏教的な抹香臭さはないものの、今も山岳信仰の色を濃く残すところです。
山頂で小休止。晴れているものの、期待した展望は吹き上げる夏雲の隠れ、期待すべくもありません。それでも目の前には外輪山の中にコバルトブルーの水をたたえる二ノ池。手前の火口丘の中には一ノ池がありますが今はすっかり枯れていました。振り返ると山頂直下から大きく崩れ落ちる地獄谷。その一角からは今も真っ白な噴煙が上がっていました。
山頂で小休止した後、二ノ池分岐まで下ることにします。山頂直下から岩屑の道を下っていくと二ノ池への分岐点。コバルトブルーの神秘的な水をたたえる二ノ池の傍には小さな二ノ池小屋が建っています。湖畔には真夏にもかかわらず真っ白な残雪が残っています。晴れていればこの向こうに摩利支天山や飛騨頂上が見えるはずですが、今日は巻き上がる夏雲にその姿を隠していました。
分岐点からは王滝山頂に戻ることとします。岩屑に覆われた道を戻ると王滝神社の裏にたどり着きました。時計はそろそろ11時半を回ろうとしています。登山道脇に腰を下ろし昼食とします。
昼食の後、田ノ原駐車場を目指し急な岩屑の道を下って行きます。振り返る御嶽山は巻き上がる雲の覆われ、遠く雷の音も聞こえてきました。
たどり着いた田ノ原駐車場脇の湿原を一巡り。木道の敷かれたこの湿原は熊ザザなどが生い茂り、かなり乾燥化が進んでいます。おそらくモウセンゴケなども生えているのでしょうが、詳しく見ていく時間もないようです。