北海道の花の山と言えばアポイ岳といわれるほど、特産種で知られた山はありません。標高は800メートルを僅かに越える低山でありながら、襟裳岬沖に発生する霧による寒冷な気候と、蛇紋岩という植物にとっては生育が難しい特殊な土壌により、数多くのアポイの名がが付いた特産種を育んだ山です。
道央自動車道を乗り継ぎ苫小牧東のインターに。ここからは一般道に下り国道234号線を浦河へ向かいます。太平洋の海岸線に沿って南下するこの道は浦河国道とも言われ、静内、三石と中央競馬界で活躍する競走馬を育てた牧場の点在する道です。たどり着いた浦河からは国道336号線と名を変えた道をさらに進んで行きます。途中から左手に折れると、登山口であるアポイ山麓自然公園にたどり着きました。天気はほぼ快晴、気温もかなり高くなっています。
駐車場からポンサヌシベツ川に沿った砂利道を進むと登山届のあるビジターセンター。ここからさらに少し進むと、道は暗いトドマツの林の中を緩やかに登る登山道になります。幾度か小さな沢を越えると三合目、小さな沢にはベンチが置いてありました。この付近から道は本格的な登りが始まります。急な坂道をひと登りすると、目の前の視界が開け五合目の休憩所にたどり着きました。正面にはこれから登る馬ノ背と小高いアポイ岳の山頂がそびえています。
休憩所からは馬ノ背に向かう開けた尾根道を登っていきます。今までの樹林帯とは対照的に、明るく開けた尾根道はたくさんの高山植物の咲き乱れるお花畑となっています。
登山道に咲く花を愛でながら、たどり着いた馬ノ背からはこれから登るアポイ岳の山頂と、それに続く日高山脈南部の山々を眺めることができます。左手の稜線上の頂は吉田岳、その奥にはピンネシリです。馬ノ背は600メートルの標高にもかかわらず、付近一帯はもうハイマツの茂る稜線です。襟裳の寒冷な気候によるものでしょうが、なんとも不思議なものです。振り返ると目の前には日高の海岸線が白い波しぶきを上げていました。
岩のゴロゴロとした馬ノ背を過ぎると、登山道は二手に分かれます。右手の道は幌満のお花畑を経て山頂に向かう道。今日は正面の稜線を登り山頂を目指すこととします。明るい稜線を登る登山道はかなりの急な登りで、すぐに息もあがってしまいそうです。八合目の標柱のそばに腰を下ろし小休止としました。
小休止の後、再び急な稜線の道に汗を流します。やがてダケカンバが目立つようになるとアポイ岳の山頂です。小広い山頂はダケカンバの林に覆われ展望はあまり望めません。普通の山であれば針葉樹林帯からダケカンバなどの広葉樹林帯に変わり、さらにその上にハイマツなどに混じり高山植物が咲いているはずです。しかしアポイ岳では高山植物の上にダケカンバの林が広がっています。
山頂からは往路をたどり登山口へ。低山とは言いながら登山口が海からわずかということで、標高差は750メートル。往復4時間の山は必ずしもハイキングの山とは侮れないものがあります。登山道の両脇に咲く花を楽しみながら馬ノ背へ。ここから急な露岩帯を下ると休憩所です。ここで山頂を振り返りながら小休止としました。
小休止の後、暗い樹林帯を登山口へ。ダラダラと下る樹林帯の中の道をおよそ1時間弱。ビジターセンターにたどり着いたときは4時を過ぎていました。
ビジターセンターでアポイ岳を紹介したビデオなどを見た後、せっかくここまできたのだからということで、襟裳岬を散策することにしました。駐車場から国道336号線を南に。歌別からは道道34号に乗り換え襟裳岬を目指します。積丹岬、宗谷岬がそうであったように、北海道の岬は木も生えていない閑散とした丘陵地帯のイメージが似合います。風が強いこと、気候が寒冷なことからこのような地形になるのでしょうが、ここ襟裳岬もまさにそうした風景の中に広がっています。岬の先端だけは土産物屋が店をならべていますが、それを過ぎると森進一の歌ではないでしょうが「何も無い春…」です。
田中澄江の花の百名山にも、北海道の花の山として紹介されているアポイ岳。ガイドブックなどによると花の時期は5月から6月にかけて。特産種であるヒダカソウをはじめとしてアポイクワガタ、アポイアズマギク、アポイマンテマなどアポイの名を冠した花も数多く自生していると言います。
本格的な花の季節は過ぎたようですが、知っている花だけでもエゾコウゾリナ、イブキジャコウソウ、ミヤマキンバイ。アサツキのような花はヒメエゾネギというのでしょうか。馬ノ背に向かう稜線はたくさんの花で彩られていました。